デート修行(1)

父親の期待に応えられないことに恐縮したが、コロンダ君はマジに返事した。「はい、父親の期待に応えられないのは、とても申し訳なく思っています。でも、僕は、政界には向いていないと思っています。今期限りで、議員をやめる覚悟です。お菊さんにも大変ご迷惑をかけしたことを何と言ってお詫びしていいか分かりません。どうか、分かってください」お菊さんは、肩を落として黙って聞き入っていた。

 

このままではコロンダ君に押し切られてしまうと直感したお菊さんは、戦法を変えることにした。「そうですか。とっても残念です。お母さんにはなれなくとも、長い間、精一杯、坊ちゃんのためにお世話をしてまいりました。でも、残酷じゃありませんか。本当に、神様はいるのでしょうか。坊ちゃんが、政界から去ると決意なされたことは、お菊の育て方が誤っていたということですね。もはや、お菊は用なしのババアでしかありません。これ以上、生き恥をさらしたくはありません。死んでお詫び申し上げます。坊ちゃん、不甲斐ないお菊をお許しください」

 

死んで、と聞いたコロンダ君は目を丸くして跳び上がってしまった。意表を突かれたコロンダ君は、なんといって返事していいか分からず、金魚のように口をパクパクさせてしまった。自分に落ち着け、落ち着け、と言い聞かせどうにか言葉を絞り出した。「ちょ、ちょ、ちょっと、そう、悲観しないでください。お菊さんが悪いなんて、一言も言っていません。お菊さんには、感謝しています。お菊さんを見捨てたりなんかしませんよ。これからも、ずっと、僕のお母さんでいてください。結婚しても、一緒に暮らしたいと思っています」

 

作戦成功とほくそ笑んだお菊さんはさらに追い打ちをかけた。「でも、坊ちゃんが国会議員をやめてしまえばお菊は用なしじゃない。さらに、あの忌々しいイモと結婚してしまえば、粗大ごみ扱いされて捨てられるのは目に見えてるわよ。もう、お菊には生きていく場所はないのよ。孤独死するしかないのね。そう、旅に出ようかしら。冬の日本海はきっと冷たいわよね。断崖絶壁に立って神にお祈りするわ。すべては、お菊が悪うございました。どうか、お菊の罪をお許しくださいと」

 

コロンダ君は、とんでもないことになってしまったと手が震えだしてしまった。突然、立ちあがったコロンダ君は、素早くお菊さんの右横に立つと泣きそうな顔で慰めた。「お菊さん、考え過ぎですよ。結婚しても一緒に住みますから、そんなに嘆かないでください。笙子は、お菊さんを毛嫌いするような女じゃありません。きっと、三人でうまくやっていけますよ。涙を拭いて、元気を出してください」

コロンダ君はハンカチをお菊さんに手渡し、席に戻った。お菊さんは、うそ泣きの涙にハンカチを当て一層悲しい表情を作った。そして、涙声で話し始めた。「でも、坊ちゃんはの恐ろしさを知らないのよ。いったん結婚してしまえば、あのイモは夜叉になるに決まってるわ。毎日、いびられて追い出されるに決まってるわよ。すべては、お菊が悪いんです。潔く自害します。同情なんて、いりません」

 

これ以上どうやって慰めればいいかわからなくなってしまった。ここはひとまずお菊さんの気持ちを汲んで、自害だけは防ぐことにした。「お菊さん、僕もちょっと、浅はかだったように思います。確かに政治家には向いてないと思いますが、やるだけのことをやってもいないのに逃げ出すようなことを言ったことは、恥ずかしいことでした。天下は取れなくとも、国政をよくするための努力はすべきだと思います。どうにかして、貧困問題を解決すべく努力していきます。今後も、お菊さんのご支援、よろしくお願いします」

 

どうにか手のひらに載せることができたと思ったお菊さんは、小さくうなずきハンカチを握りしめ返事した。「坊ちゃんにお願いされれば、お菊は命を投げ出してもお仕えいたします。そのためには、まず、結婚が第一です。一刻も早く、ご結婚をなされ、御父上に孫をお見せください。京女は最高ですよ。一刻も早く、博多のイモなんか切り捨てて、京女を賞味なさってください。きっと、お気に召しますから」お菊さんは、頑として博多のイモだけは、許す気になれなかった。

 

お菊さんの笙子嫌いには、手に負えなかった。笙子がいとこであることを考えれば、確かに結婚相手として、ふさわしとは言えない。でも、法律で禁じられているわけではない。現に、江戸時代までは、いとこ同士で何の問題もなく結婚をしていた。特に、皇族、貴族では、いとこ同士の結婚が尊ばれていた。血が濃くなることは、奇形児の発生率が高くなるとは聞いているが、それはあくまでも確率であって、必ず奇形児が生まれるわけではない。笙子との結婚は、根気よく説得する以外にないと思えた。

 

ニコッと笑顔を作ったコロンダ君は、結婚の話を避け、社会情勢の話をすることにした。「日本は、急激に貧困化しています。政治家が取り組まなければならないことはたくさんありますが、その中でも、若者の低賃金労働対策と親による子供の虐待対策ではないでしょうか。不当労働問題対策として、第一に、労働組合の強化だと思っています。現在、大企業は派遣社員中心の労働で成り立っています。そのため、労働者は団結できず、労働者の権利が主張できなくなっています。このままだと、労働者は、奴隷と化してしまいます。今後、最優先で派遣社員制度の改革をやって行こうと思っています」

 

お菊さんは、政治のことはどうでもよかったが、何度もうなずいて、コロンダ君の機嫌を取った。「坊ちゃんのやる気をお聞きして、お菊は安心しました。坊ちゃんなら、きっと総理になれます。日本のため、世界のために頑張ってくださいませ。お菊は、どこまでもお供致します。でも、大物になるには、女心をつかまなければなりません。女心を熟知するには、いい女の味を知らなければなりません。イモ女の味しか知らないようでは、女を知っているとは言えません。とにかく、セックスは多いほどいいのですよ、坊ちゃん」

 

お菊さんの魂胆が見え見えで、コロンダ君の表情はしかめっ面になった。女遊びをさせて笙子と別れさせつもりだということは、百も承知していた。「お菊さん、僕は女遊びをしたいとは思いません。愛する人と結婚できれば、それでいいのです。僕は、政治家として、正義を貫きたいのです。日本人を奴隷化するような派遣システムには断固反対なのです。マフィア政治と断固闘っていきます。たとえ、暗殺されようとも、ケネディーのごとく正義を貫いて死にたいのです。日本民族を守り通して死にたいのです」

 

父親の女好き遺伝子を受け継いでいるはずと思っていたが、女遊びをこうもきっぱり拒否されては、次の手が思いつかなかった。「坊ちゃんの正義は、見上げたものです。でも、この世の中、女が半分いるのです。女を使いこなせなくては、政治はできません。坊ちゃんは、愛する女とおっしゃいましたが、まだまだ、女性経験が足りません。もっと、女性遍歴を重ねたうえで女を品定めされるべきです。そうすれば、愛する女も、いい女もわかってくるのです。イモは所詮イモなのです。もっとおいしい果物を召し上がってください。お菊のようなおいしい果物に出くわすまで、お遊びください」

 

コロンダ君は、ここまで自画自賛するといは思わなかった。しつこくて屁理屈をこねるお菊さんのような女性がいい女とでも言いたいのだろうか。どんなに美人でも、お菊さんのように自意識過剰でしつこいのであれば、美人は御免こうむりたい気持ちになった。「お菊さん、女性は美人で家柄がいいのに越したことはないと思います。でも、人の価値は、顔や家柄で決まるものでしょうか?僕は思うのです。その人のやっていることに価値があると」

 

コロンダ君は、笙子の活動をお菊さんに教えることにした。コロンダ君は、彼女の福祉活動から心の優しさを感じていた。「お菊さん、笙子を嫌っているようですが、彼女にもいいところがあるんです。今、老人ホームや児童養護施設を回って、彼らを歌で元気づけているんです。そのような行動に、彼女の素晴らしさを感じるのです。マスクはイモかもしれません。でも、いいじゃないですか。おじいちゃん、おばあちゃん、子供たちに、とっても人気があるんですよ。こういう女性も評価されていいんじゃないでしょうか?」

笙子を援護するコロンダ君のにやけた顔を見た途端、お菊さんはイラっと来た。お菊さんにとっては、老人や子供たちに喜ばれる福祉活動をやっいてたからと言っても、笙子はにっくき敵でしかなかった。イライラが募りほほをピクピクさせたお菊さんは、笙子が憎いあまり福祉活動までけなし始めた。「慰問活動ね~。まあ、悪いことではないけど、自慢することでもないわよね。福祉活動するのがいい女の条件になるなんて、聞いたこともなわ。やっぱ、いい女の条件は、マスクと家柄じゃないかしら。まあ、厚化粧とコスプレしかできないイモ女よりは、福祉活動をやっている方がいい女だとは思うけど」

 

徹底して笙子をけなすお菊さんにお手上げだったが、いつかきっとわかってもらえる日が来ると信じたかった。どんなに反対されてもけなされても、お菊さんが分かってくれるまで根気よく笙子の良さを訴えることにした。「そうでしょ。イモでも心が優しければいいじゃないですか。蓼(たで)食う虫も好き好きっていうじゃないですか」お菊さんは、どうしてあんな博多のイモを好きになったのか不思議でならなかった。あの忌々しいイモを忘れさせるには、女遊びをさせるのが一番とますます思えてきた。

 

お菊さんは、男を骨抜きにできるほどの色気のあるいい女はいないかしばらく考え込んでいた。極上の女の味を味わってしまえば、イモがいかにまずいか気づくに違いないと思えた。コロンダ君は、黙りこくってしまったお菊さんに声をかけた。「お菊さん、何、考え込んでいるんですか。ご令嬢には、悪いことをしていると思いますが、今回のお見合いまでは、やってみます。でも、今回までですからね。悪く思わないでください。これ以上、先方にご迷惑をかけるわけにはいきません」

 

現段階では、ゴリ押しはなんの成果も生まないと悟ったお菊さんは、一度うなずき返事した。「坊ちゃんの気持ちは、よ~~く分かりました。今回のお見合いはなかったことにします。だからと言って、あのイモとの結婚を許したわけではありませんよ。それと、今後は女の勉強に励んでいただきます。坊ちゃんには、いろんなことを教えてきましたが、抜けていた勉強がありました。それは、女体学です。女と言うものは、性感で考えるものです。これからは、嫌と言うほどセックスをしていただきます。覚悟はいいですね」

 

コロンダ君は、お菊さんの意味不明の弁舌にあきれ返ったが、この場は丸く収めた方が賢明と思い、ニコッと笑顔を作り、ハイと返事した。「お菊さんのおっしゃることは、ごもっともです。確かに僕は、女性のことはよくわかりません。実のところ、笙子のこともよくわからないのです。笙子は何を考えているのかさっぱりわかりません。でも、好きなのです。はっきり言って、僕は恋愛が苦手なんです。学生時代に恋愛らしきものをしたように思うのですが、結局、振られてしまいました。女性に関しては、お手上げなんです」

サーファーヒカル
作家:春日信彦
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