デート修行(1)

上機嫌で帰宅したコロンダ君は、玄関のチャイムを鳴らし、即座に踊り場に駆け上がるとお菊さんの部屋にかけて行った。お菊さんは、ちゃぶ台のノートパソコンのキーボードを真剣に見つめ指を動かしていた。お菊さんの正面に正座すると興奮した声で話しかけた。「ただ今、お菊さん。やりましたよ。僕としては、結構うまくやったと思いますよ。お菊さん、聞いてくださいよ。仕事はその辺にして」

 

お菊さんは、きっとはしゃいで帰ってくると予測していた。さすがプロは違うと季実子の腕に感心していた。お菊さんは、手のひらで遊ばれている坊ちゃんをからかってやることにした。ノートパソコンに据えていた目を持ち上げ感激したような表情でコロンダ君に声をかけた。「坊ちゃん、うまくいったみたいじゃない。さすが、坊ちゃん。もしかしたら、坊ちゃんは、モテる方なのかも?次のデートの約束はできたの?」

 

 有頂天になったコロンダ君であったが、お菊さんにイヤミを言った。「確かに、うまくいったように思うけど、ちょっと、つり合いが取れないんじゃないかな~。季実子さんは、ミス着物にミスキャンパスと言うじゃないか。美人過ぎて、デートしていても気まずくなってしまったよ。二人で渡月橋を歩いていると、通りすがりの野郎たちは、季実子さんをジロジロ見つめてさ」

 

 吹き出しそうになったお菊さんは、笑いをこらえて返事した。「お菊が言うのもなんですが、坊ちゃんも、結構イケてると思いますよ。坊ちゃんに足りないのは、野性味だけです。女は、たくましい男に引かれるものなんです。グイグイ女を引っ張っていく男になってください。きっと、坊ちゃんなら、いっぱしの男になれます。自信をもって、季実子さんにアタックしてくださいな」

 

 季実子を気に入ったコロンダ君は、次回のデートが楽しみになっていた。いずれ振られると思ったが、それでも季実子とのデートを繰り返したいという気持ちは強まり、本当に実現するか不安であったが、次回は温泉に誘う気持ちになっていた。「お菊さん、季実子さんは、温泉巡りが趣味なんだそうです。次は、道後温泉に誘うつもりです。成功するように、お菊さん、祈ってください」お菊さんは、手を合わせて神にお願いした。“どうか、季実子の肌におぼれて笙子のことを忘れますように”

春日信彦
作家:春日信彦
デート修行(1)
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