デート修行(1)

渡月橋の中間あたりまで来ると歩きながらの会話にうんざりし始めていた。二人の横を通りすぎる男性たちは、季実子を女優と思っているのかジロジロと見つめ通り過ぎていた。おそらく、自分は付き人にでも見られているんじゃないかと思えた。お腹もすいてきたことだし、お菊さんが予約しておいた“よしむら”に誘うことにした。「少し早いですが、食事にいたしませんか。手打ちそば“よしむら”はいかがですか?」

 

 季実子も歩くのは苦手で、腰かけて話をしたかった。「はい。よしむらは超人気店ですね。でも、もうこの時間だと、満席で、1時間ぐらい待たされますね」ニコッと笑顔を作ったコロンダ君は返事した。「ご心配なく。2階の窓際の席を予約していますから」季実子はさすが、国会議員の力だと思った。お店は、国会議員と聞いて最高の窓際の席を確保したに違いないと思った。

 

 京都出身の季実子は、子供のころから“よしむら”で何度も食事したことがあった。「さすが、議員さんですね。最高の窓際の席を確保できるなんって。二階の窓から一望できる渡月橋と桂川は絶景ですよね絶景を眺めながら食事ができるなんて、今日は、幸運の日です。うれしいわ」季実子に喜んでもらったことは、素直にうれしかった。でも、議員の力でいい席を確保したことは事実であったが、面と向かって言われると政治家は権力者と思われているようで気まずくなってしまった。

 

 コロンダ君は、一刻も早く腰かけて絶景を眺めながら会話したかった。「さあ、参りましょう。おなかペコペコです」子供のような表情に季実子も笑顔を作った。受付が予約を確認し、二人は二階の席に案内された。早速お品書きを手にしたコロンダ君は、渡月膳を注文することにした。「僕は、渡月膳にしますが、季実子さんは?」季実子は何か悩んでいるようだった。「そうですね、私は、野菜そばにします」

 

 季実子はぼんやりと眼下の渡月橋を眺めていた。コロンダ君は、話題に悩んだが、とにかく季実子を褒めることにした。「和服がお似合いですね。ミス着物になられたことがおありじゃないですか?」ニコッと笑顔を作った季実子は返事した。「はい、20歳の時、京都ミス着物になりました」コロンダ君は、大きくうなずき話を続けた。「僕は、特にこれと言った取柄がないし、趣味も特にこれと言ったものがないんです。面白くない男なんです」

 

笑われたことをかなり気にしているようで気の毒になった。「私こそ、中途半端な性格なんです。自分のイヤなところなんです。お茶も三味線も中途半端で一向に上達しないんです。どちらかと言うと怠け者で、遊び好きなんです。学生時代は、バイトでお金をためては、温泉やお寺巡りをしていました。池上家は臨済宗なのですが、建仁寺、東福寺、円覚寺、南禅寺、大徳寺、はもちろん、そのほか数えきれないくらいのお寺を学生時代に参拝しました。今流行りの、寺女なんです。意外と地味なんですよ」

 

 臨済宗と聞いて、共通点を見つけたコロンダ君は、笑顔で話を続けた。「僕も臨済宗なんです。一休さんで知られてますよね。奇遇だな~~。同じ宗派なんですね。温泉巡りは、やったことはありませんが、温泉は好きですよ。いつか二人で温泉巡りしましょうか。いや、ちょっと、図々しかったですね。初対面なのに」大胆なこと言ってしまったコロンダ君は、顔を赤らめワハハと照れ隠し笑いをして頭を掻きむしった。

 

 うぶで遠慮がちな態度に距離を感じていたが、大胆な言葉のおかげで二人が急に接近したように感じた。あくまでもお芝居のデートであったが、いつの間にかマジにコロンダ君のことが気になっていた。「本当に、ご一緒してくださるんですか。うれしいわ。ぜひ、温泉巡りに参りましょう。でも、議員さんは、とてもお忙しいんじゃないですか?」コロンダ君は、誘いに乗ってくれたことに有頂天になってしまった。「いや、季実子さんと旅行できるのならば、大優先に休暇を取ります。うれしいな~~、もう、ワクワクしてきました」

 

 無邪気なコロンダ君にグッと声を抑えて心で笑ってしまった。「ところで、ネコはお好きですか?私は、ネコが大好きで、子供のころから猫を飼っているんです。今は、タマと言う三毛を飼っています。猫と暮らしていると心が安らぐんです。何か、ペットを飼われていますか?」コロンダ君は、またもや共通点を見つけ笑顔を作った。「僕もネコが好きなんです。ボスと言うシャム猫を飼っています。二人って、似た者同士なんですかね」ボスはお菊さんが世話をしている愛猫だったが、勢いで自分が飼っているように話してしまった。ニコッと笑顔を作ったコロンダ君は、季実子を見つめた。

 

 コロンダ君は、初対面の相手にこれほど気軽に話をしたのは初めてであった。不思議なくらい季実子を親しく感じ、これからも何度でも会って話をしたい気持ちになった。季実子も国会議員の坊ちゃんと聞いていたから、まったく話がかみ合わないと思っていたが、思っていたより庶民的な感性の持ち主で話が弾み、初デートの仕事は成功したと実感した。次回のデートはコロンダ君から連絡するということで、嵐山公園を散策した後、二人は別れた。

上機嫌で帰宅したコロンダ君は、玄関のチャイムを鳴らし、即座に踊り場に駆け上がるとお菊さんの部屋にかけて行った。お菊さんは、ちゃぶ台のノートパソコンのキーボードを真剣に見つめ指を動かしていた。お菊さんの正面に正座すると興奮した声で話しかけた。「ただ今、お菊さん。やりましたよ。僕としては、結構うまくやったと思いますよ。お菊さん、聞いてくださいよ。仕事はその辺にして」

 

お菊さんは、きっとはしゃいで帰ってくると予測していた。さすがプロは違うと季実子の腕に感心していた。お菊さんは、手のひらで遊ばれている坊ちゃんをからかってやることにした。ノートパソコンに据えていた目を持ち上げ感激したような表情でコロンダ君に声をかけた。「坊ちゃん、うまくいったみたいじゃない。さすが、坊ちゃん。もしかしたら、坊ちゃんは、モテる方なのかも?次のデートの約束はできたの?」

 

 有頂天になったコロンダ君であったが、お菊さんにイヤミを言った。「確かに、うまくいったように思うけど、ちょっと、つり合いが取れないんじゃないかな~。季実子さんは、ミス着物にミスキャンパスと言うじゃないか。美人過ぎて、デートしていても気まずくなってしまったよ。二人で渡月橋を歩いていると、通りすがりの野郎たちは、季実子さんをジロジロ見つめてさ」

 

 吹き出しそうになったお菊さんは、笑いをこらえて返事した。「お菊が言うのもなんですが、坊ちゃんも、結構イケてると思いますよ。坊ちゃんに足りないのは、野性味だけです。女は、たくましい男に引かれるものなんです。グイグイ女を引っ張っていく男になってください。きっと、坊ちゃんなら、いっぱしの男になれます。自信をもって、季実子さんにアタックしてくださいな」

 

 季実子を気に入ったコロンダ君は、次回のデートが楽しみになっていた。いずれ振られると思ったが、それでも季実子とのデートを繰り返したいという気持ちは強まり、本当に実現するか不安であったが、次回は温泉に誘う気持ちになっていた。「お菊さん、季実子さんは、温泉巡りが趣味なんだそうです。次は、道後温泉に誘うつもりです。成功するように、お菊さん、祈ってください」お菊さんは、手を合わせて神にお願いした。“どうか、季実子の肌におぼれて笙子のことを忘れますように”

サーファーヒカル
作家:春日信彦
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