デート修行(1)

季実子の話を聞いてお金に苦労していることが分かった。AV嬢になったのもお金のためだと理解できた。「それは、御不幸が続きましたね。ところで、季実子さんのお父様は、何をなされていましたか?もしや、府会議員では?」季実子は、父親のことは話したくなかったが、同郷でなんとなく気心が知れたので話すことにした。「はい、その通りです」大きくうなずいたお菊さんは、季実子の不幸の運命を感じざるを得なかった。「あの収賄事件は、結局、お父様の自殺で迷宮入りになりました。季実子さん家族は災難でしたね」

 

 季実子はうつむいたまま小さくうなずいた。「過ぎ去ったことは、もう忘れました。思い出したくもありません。ところで、私の職業ですが、何にしましょうか?下賀茂に実家がありますので京都で働いていることにしますか?」お菊さんも現在の職業を何にするか考えていた。大卒だし、気品があるから、どんな職業でも問題はないと思うんだけど、そうだわ、商工会議所の観光課に勤務、ってのはどうかしら。それがいいわ」季実子も気にいった職業だったので大きくうなずいた。

 

                  デート修行

 

 中洲のワシントンホテルに一泊し京都の二条ロイヤルホテルに一泊したお菊さんは、127日(木)に自宅に戻ると早速、コロンダ君にデートの話をすることにした。コロンダ君は、お菊さんがもう帰ってきたのかとがっかりしたが、旅の土産話を聞けると思うとワクワクしてきた。お菊さんのコンコンと軽やかなノックが響いた。コロンダ君は笑顔で返事した。「はい、どうぞ」お菊さんは、ドアを開くと取ってつけたような笑顔をのぞかせた。内またのすり足でテーブルの横まで来ると生八つ橋とお茶を載せたトレイをテーブルにそっと置いた。

 

 「坊ちゃん、生八つ橋よ。さあ召し上がれ」コロンダ君は、生八つ橋と聞いてよだれが出そうになった。「おいしそうですね。お菊さんは、分かってらっしゃる。きっと、旅先でなにかいいことでもあたんですね。いつになくご機嫌な表情ですよ」お菊さんは、早速デートの話を切り出した。「坊ちゃんにとって、いい話なんですよ。デートの相手が早速見つかったのよ。今週の土曜日、デートできそうかしら。よかったら、早速先方に連絡するわ」

 

 コロンダ君は、お見合いの相手を探しに京都に行ったに違いないと思っていたが、やはりそうだったかとガックリ来た。「いや、今のところ予定はないけど。デートの修行であって、デートしたからと言って結婚はしませんよ。それでよければ、デートします」お菊さんは、大きくうなずき笑顔で返事した。「相手だって結婚するかどうかは、デートをしてから決めるのよ。あくまでも、ありふれたデートでいいの。結婚のことは考えず、男を磨くつもりで気楽にデートしてちょうだい」

コロンダ君は、お菊さんの物分かりの良さに気持ち悪くなった。コロンダ君はもう一度念を押すことにした。「結婚はしませんよ。それでいいのですね。3か月後には、きっぱりと別れていいのですね。約束ですよ」コロンダ君もしつこい男だと思ったが、お菊さんは大きくうなずき返事した。「あくまでもデートだけです。坊ちゃんのやりたいようにデートして、3か月後には、結婚したくなければ、きっぱりと別れて結構です。先方にも、嫌になればいつでもデートを断っていいと伝えてあります。坊ちゃん、頑張らないと、一回のデートで終わりってこともありますよ」

 

デートだけであることが確認できて、コロンダ君の顔が緩んだ。ホッとしたコロンダ君は、どんな相手か聞きたくなった。「お菊さん、今度はどのような方ですか?京美人ですか?」お菊さんは、彼女の素性について詳しい話をせず、写真も見せず、初対面のデートをさせることにした。「今回は、写真はありません。お相手は、池上季実子さんと言って、とっても美しい京美人です。初デートは、京都嵐山でどうかしら」

 

 コロンダ君は、写真を見ずにお見合いするのは初めてであった。でも、顔も知らずに初めて会うと思うと期待感と不安が入交、ワクワクしてきた。「嵐山ですね。いいじゃないですか。どんな方かな~~。ドキドキするな~~」お菊さんは、うぶな坊ちゃんの興奮を見ていると吹き出しそうになった。「それじゃ、お見合いの日時は、129日(土)の午前11時。落ち合う場所は、渡月橋北口。よし決まり。先方さんに日時と場所を知らせるわ。坊ちゃんは、季実子さんの顔を知らないから、最初のデートはお菊が引き合わせましょう。ババア~は、すぐに立ち去りますから、後はご自由にデートしてちょうだい」

 

 お菊さんとコロンダ君は、129日(土)午前10時前30分に渡月橋の北口に到着した。万が一遅刻して、ルーズな男性と思われたならば、一回のデートで断られるかも、とお菊さんに脅されたコロンダ君は、早めに到着することにした。季実子は115分前に着物姿で現れた。お菊さんは、二人を面会させると、季実子にウインクをして即座に立ち去った。すでに10回お見合いしていたコロンダ君は、今回も適当な挨拶をして食事をする計画を立てていた。 

 

 今までのお見合い相手は、まあまあ美人で気品があったが、いかにも上流階級のプライドを鼻にかけたような上から目線の女性が多かった。ところが、季実子は美人と言うより色っぽく、しかも、気品があるにもかかわらず、庶民的な雰囲気を醸し出していた。通りすがりの男性たちは、彼女に目を奪われ、彼女に視線を向けたまま歩いていた。確かに、ミス着物を思わせる和服美人と言えた。今までお見合いした中では、最もコロンダ君好みだった。

「少し歩きましょう。お菊さんから、なにか、僕のことをお聞きになりましたか?」季実子は、参議院議員であること以外何も知らされていなかった。「参議院議員でいらっしゃるんでしょ。そのほかは、お聞きしておりません。私のことはどうです?」コロンダ君も出身が京都と言うこと以外何も知らされてなかった。「季実子さんは、京都出身と言うことは聞きましたが、それだけです」

 

季実子は、小さな声でクスクスと笑ってしまった。「コロンダ君は何か変な表情でもしたのかと顔を真っ赤にしてしまった。本当に世間知らずの坊ちゃんだということが、態度と話し方ではっきりとわかり、つい笑ってしまったのだった。「私は、京都商工会議所の観光課で働いています。趣味と言えるものはないのですが、三味線とお茶をやっています。大学時代は、温泉巡りサークルに所属していました。「秀文さんの御趣味は?」

 

 コロンダ君は、趣味と言うものがないため気まずくなってしまい、頭を掻きむしってしまった。「それが、趣味と言うものがないんですよ。どちらかと言うと、スポーツ音痴の文学少年なんです。趣味と言えるかどうか、小説を書くのが好きなんです。お菊さんに比べたら、子供の作文みたいなもので、人に言えるほどの趣味じゃないんです。でも、季実子さんには、なぜか、話してしまいました。どうしてなんだろう」

 

 季実子は、また、クスクス笑ってしまった。こんなに笑われたのは初めてで、やっぱ、自分はモテない男だと実感し情けなくなってしまった。「僕って、詰まんないでしょ。僕は、男としての魅力がないんですよ。結局、片思いで、失恋してしまうんです」目を丸くした季実子は、コロンダ君の顔を見つめると少し大きな声でクスクスと笑ってしまった。さすがにコロンダ君も、侮辱されているみたいで食って掛かった。「そんなにおかしいですかね。初めてでしょ、こんな、詰まんない男」

 

 季実子は、笑いすぎたことに申し訳なく思った。決して馬鹿にしたのではなく、あまりにもうぶなのでつい笑ってしまったのだった。でも、やはり笑いをこらえるべきだったと深く反省したが、後の祭りだった。「ごめんなさい。決して、詰まんない男性なんて、思っていません。とっても、素直な方で、愉快な方だと思います。私なんて、大学では、温泉巡りばかりやって、勉強なんて全くしませんでした。それに、私も、彼氏ができなかったんです」

 

渡月橋の中間あたりまで来ると歩きながらの会話にうんざりし始めていた。二人の横を通りすぎる男性たちは、季実子を女優と思っているのかジロジロと見つめ通り過ぎていた。おそらく、自分は付き人にでも見られているんじゃないかと思えた。お腹もすいてきたことだし、お菊さんが予約しておいた“よしむら”に誘うことにした。「少し早いですが、食事にいたしませんか。手打ちそば“よしむら”はいかがですか?」

 

 季実子も歩くのは苦手で、腰かけて話をしたかった。「はい。よしむらは超人気店ですね。でも、もうこの時間だと、満席で、1時間ぐらい待たされますね」ニコッと笑顔を作ったコロンダ君は返事した。「ご心配なく。2階の窓際の席を予約していますから」季実子はさすが、国会議員の力だと思った。お店は、国会議員と聞いて最高の窓際の席を確保したに違いないと思った。

 

 京都出身の季実子は、子供のころから“よしむら”で何度も食事したことがあった。「さすが、議員さんですね。最高の窓際の席を確保できるなんって。二階の窓から一望できる渡月橋と桂川は絶景ですよね絶景を眺めながら食事ができるなんて、今日は、幸運の日です。うれしいわ」季実子に喜んでもらったことは、素直にうれしかった。でも、議員の力でいい席を確保したことは事実であったが、面と向かって言われると政治家は権力者と思われているようで気まずくなってしまった。

 

 コロンダ君は、一刻も早く腰かけて絶景を眺めながら会話したかった。「さあ、参りましょう。おなかペコペコです」子供のような表情に季実子も笑顔を作った。受付が予約を確認し、二人は二階の席に案内された。早速お品書きを手にしたコロンダ君は、渡月膳を注文することにした。「僕は、渡月膳にしますが、季実子さんは?」季実子は何か悩んでいるようだった。「そうですね、私は、野菜そばにします」

 

 季実子はぼんやりと眼下の渡月橋を眺めていた。コロンダ君は、話題に悩んだが、とにかく季実子を褒めることにした。「和服がお似合いですね。ミス着物になられたことがおありじゃないですか?」ニコッと笑顔を作った季実子は返事した。「はい、20歳の時、京都ミス着物になりました」コロンダ君は、大きくうなずき話を続けた。「僕は、特にこれと言った取柄がないし、趣味も特にこれと言ったものがないんです。面白くない男なんです」

 

サーファーヒカル
作家:春日信彦
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