デート修行(1)

お菊さんは目の前のAV嬢をまじまじと見つめた。しばらく見つめた後尋ねた。「あなたは本当にAV嬢ですか?品のある顔立ちで清楚な風貌をしていらっしゃる。資産家のご令嬢と言ってお見合いされても全く疑われることはないんじゃないかしら。ご令嬢のようなAV嬢の方もいらっしゃるのね。あなたなら、申し分ないわ。きっと、坊ちゃんは気にいるわ」お菊さんは感心した顔で改めてまじまじと見つめた。

 

 顔を真っ赤にした季実子は、仕事の話をすることにした。「国会議員でいらっしゃるお坊ちゃまと見合いをして3か月間デートをする仕事だと聞きましたが、そのほかになにかやってほしい御要望はりますか」お菊さんは、坊ちゃんの性格を知らせておくことにした。「確かに、3か月間デートしていただければいいのですが、坊ちゃんは、とってもおくてで、恋愛経験もあまりないのです。だから、自分から女性をホテルに絶対誘いません。だから、あなたが、うまくベッドに誘惑して甘いセックスを味合わせてやってください。早い話、坊ちゃんをセックス大好きライオンにしてほしいのです。

 

季実子は、眉間に皺をよせ困り果てた表情を作った。ベッドに誘惑してほしいと言われますます自信を無くしてしまった。「私にできるでしょうか?AV女優は男優のリードで演技します。色摩の役もありますが、あれは男性を喜ばす演技であって、素人相手では、あまりにも不自然です。生真面目でうぶな坊ちゃんを自然に誘惑できるか自信がありません。実を言いますと、私も恋愛経験があまりないのです。ちょっと、私には荷が重いようです。ほかの方を探されてはいかがでしょう」

 

断られたお菊さんは、一瞬固まってしまった。女が誘惑してセックスさせることは簡単なことのように思っていたが、例外はあるわけだし、その例外に坊ちゃんが当てはまるように思えた。品位があってご令嬢に見えるAV嬢などそうどこにでもいるものではない。季実子に断られたらおそらく適任者は見つからないように思えた。成功するかどうかはやってみなければわからない。ちょっとプレッシャーをかけ過ぎたことに気が付いたお菊さんは、適任者は季実子しかいないことを強調することにした。

 

笑顔を作ったお菊さんは、季実子の気持ちを楽にするためになるべくお世辞を交えながら話すことにした。「季実子さん、そう悲観しないでください。あなたにしかできない仕事だと思っています。気品があって、知性的で、言葉遣いも上品な人は、そうどこにでもいるものではありません。季実子さんのようなお見合い相手を探していたのです。デートはやってみなければわかりません。季実子さん流で構いませんからやっていただきたいのです。デートのセッティングで要望があれば何なりとおっしゃってください」

季実子は依然自信がなかった。引き受けて1ヶ月もしないうちにデートを打ち切られることも考えられた。さらに、セックスに誘惑するという仕事まで要件としてある。季実子は憂鬱になってしまった。しばらく黙りこくっているとお菊が手助けするように話し始めた。「季実子さん、あまり難しく考えなくて結構なんです。デートですから気楽にやってください。ご出身はどちらですの?福岡の方ではないようですが」

 

 季実子は自分の素性について話したくなかった。話していけばAV嬢になったいきさつまで話さなければならなくなってしまうように思えて不安になった。「出身は、京都です」お菊さんは目を丸くして話を続けた。「まあ、私もよ。これも何かの縁じゃないかしら。京女であれば、最高だわ。まったく、幸運だったわ。それじゃ、最初のデートは、京都でなされてはいかがですか?宿泊費と交通費は、こちらが負担しますから、思う存分楽しんでくださって結構ですよ」

 

不安はまだ幾分あったが、デートの結果は誰にもわからないように思えた。万が一、セックスデートまで行かなかった場合のことを確認することにした。「はい、そこまで私に期待なされるのであれば、全力を尽くしてやってみます。でも、ご希望のセックスデートに到達するかは自信ありません。万が一、セックスまで行かなかった場合はどうなるのですか?」

 

 お菊さんは、必ずセックスデートまで到達してほしかったが、こればかりは神に任せる以外にないと思った。セックスまで到達しなければ、お金をドブに捨てるようなものに思えたが、このことは覚悟の上のバクチと考えて実行する以外にないと決断した。「当然、成功するとは限りません。それでも、私は、季実子さんに賭けてみます。もし、セックスまで行かなくても、報酬は全額支払います」

 

季実子はそのことを聞いてホッとしたが、ホテルに誘わない生真面目な坊ちゃんをセックスに誘惑する自信は全くなかった。「先ほども申しましたように、ホテルに誘わないような生真面目な方をホテルにこちらから誘う自信はありません。たとえ誘ったとしても、断られると思います。おそらく、セックスはできないと思いますが・・」お菊さんは、このことは当然予測していた。お菊さんは、セックス誘惑作戦を話すことにした。

「季実子さんの御心配はごもっともです。その対策は今からお話しします。坊ちゃんは、自分からホテルには誘いません。だから、時々、私の家を使ってデートをするようにしてください。自宅であれば、坊ちゃんも気を許すでしょう。油断したところで、自然にセックスアピールをして、坊ちゃんを興奮させてくだされば、きっとセックスしたくなるはずです。もたもたしていたら、ペニスを引っ張り出して、しゃぶりまくってください」

 

季実子の目が輝き始めた。これだったら、うまくできるような気がしてきた。和室であっても隣に腰掛ければスキンシップできるし、坊ちゃんの部屋であればベッドもあるはず。このセッティングであれば成功するような気分になった。生真面目な坊ちゃんと言えども本性はオオカミに違いない。甘い肌を少しでも感じれば、きっと手を出すはず。なんとなく成功するような気がし始めた。この仕事は女優業の修行と思って体当たりでやってみることにした。

 

 「ご自宅を使わせていただければ、成功の確率はグッと上がります。とにかく全力で誘惑してみます。朗報を待っていてください。ところで、今月からデートですか?」お菊さんは、クリスマスイブのチャンスを狙っていた。今週からデートをすれば、クリスマスイブまでに3回はデートできると考えた。クリスマスイブは自宅でパーティーをすれば、セックスのチャンスが必ず生まれると考えた。

 

 ワクワクする気持ちを抑えきれずうわずった声で返事した。「はい、早速、今週、お見合いデートいたします。お見合いと言っても堅苦しいものではなく、気楽にデートしてください。季実子さんは、京都だったわね、それじゃ、嵐山で初デートと言うことで。日程は後日連絡いたします。この仕事を最優先してくださいね。そう、履歴の件があったわ。あなたの素性を打ち合わせていないと話が食い違ってしまうわ。あなたの履歴はどうしますか?」季実子は、確かに京都出身でK大学もちゃんと卒業していたから嘘をつく必要はなかった

 

 さらに、仕事を請け負う限り家庭の事情も正直に話すことにした。「履歴書ですよね。ちゃんとした履歴書を出さないと失礼ですよね。京都出身、K大学卒業は、事実です。家族構成は、47歳の母とR高校に通っている17歳の弟がいます。父親は7年前に死亡していません。母親は昨年脳梗塞で倒れ、右半身不随の障がい者になりました。現在、特別養護老人ホームに入っていて、弟は寮生活をしています。だから、二人の生活費に毎月最低20万の支払いをしています。このまま母親が老人ホーム生活を続ければ、父が遺してくれた保険金もすぐに底をついてしまいます。それに、弟は来年大学受験です。それで、思い切ってAV嬢になる決意をしました」

 

季実子の話を聞いてお金に苦労していることが分かった。AV嬢になったのもお金のためだと理解できた。「それは、御不幸が続きましたね。ところで、季実子さんのお父様は、何をなされていましたか?もしや、府会議員では?」季実子は、父親のことは話したくなかったが、同郷でなんとなく気心が知れたので話すことにした。「はい、その通りです」大きくうなずいたお菊さんは、季実子の不幸の運命を感じざるを得なかった。「あの収賄事件は、結局、お父様の自殺で迷宮入りになりました。季実子さん家族は災難でしたね」

 

 季実子はうつむいたまま小さくうなずいた。「過ぎ去ったことは、もう忘れました。思い出したくもありません。ところで、私の職業ですが、何にしましょうか?下賀茂に実家がありますので京都で働いていることにしますか?」お菊さんも現在の職業を何にするか考えていた。大卒だし、気品があるから、どんな職業でも問題はないと思うんだけど、そうだわ、商工会議所の観光課に勤務、ってのはどうかしら。それがいいわ」季実子も気にいった職業だったので大きくうなずいた。

 

                  デート修行

 

 中洲のワシントンホテルに一泊し京都の二条ロイヤルホテルに一泊したお菊さんは、127日(木)に自宅に戻ると早速、コロンダ君にデートの話をすることにした。コロンダ君は、お菊さんがもう帰ってきたのかとがっかりしたが、旅の土産話を聞けると思うとワクワクしてきた。お菊さんのコンコンと軽やかなノックが響いた。コロンダ君は笑顔で返事した。「はい、どうぞ」お菊さんは、ドアを開くと取ってつけたような笑顔をのぞかせた。内またのすり足でテーブルの横まで来ると生八つ橋とお茶を載せたトレイをテーブルにそっと置いた。

 

 「坊ちゃん、生八つ橋よ。さあ召し上がれ」コロンダ君は、生八つ橋と聞いてよだれが出そうになった。「おいしそうですね。お菊さんは、分かってらっしゃる。きっと、旅先でなにかいいことでもあたんですね。いつになくご機嫌な表情ですよ」お菊さんは、早速デートの話を切り出した。「坊ちゃんにとって、いい話なんですよ。デートの相手が早速見つかったのよ。今週の土曜日、デートできそうかしら。よかったら、早速先方に連絡するわ」

 

 コロンダ君は、お見合いの相手を探しに京都に行ったに違いないと思っていたが、やはりそうだったかとガックリ来た。「いや、今のところ予定はないけど。デートの修行であって、デートしたからと言って結婚はしませんよ。それでよければ、デートします」お菊さんは、大きくうなずき笑顔で返事した。「相手だって結婚するかどうかは、デートをしてから決めるのよ。あくまでも、ありふれたデートでいいの。結婚のことは考えず、男を磨くつもりで気楽にデートしてちょうだい」

サーファーヒカル
作家:春日信彦
デート修行(1)
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