オーディション

スパイダーもその点に関しては、同感だった。「まったく、困ったものだ。人間は、殺人を娯楽の一つとしている。同じ動物として、恥ずかしいったらありゃしない。風来坊、人間を教育してくれないか。イヌやネコには、手に負えん。人間同士の殺し合いならまだいいが、人間にご奉公しているイヌやネコまでも殺すんだよ。地球を救えるのは、カラスさんたちしかいないように思う。頼むから、人間をどうにかしてくれ。このままじゃ、地球上の生物は、すべて滅びてしまう」

 

 しかめっ面になった風来坊は、しばらく考え込んでいた。原爆実験、原発事故による放射能汚染、HIVの蔓延(まんえん)、これらのことを考えるとお先真っ暗になってしまった。「そういわれてもな~~。カラスにできることは、アドバイスすることだけなんだ。欧米人たちは、アフリカ人やアジア人が増え続ければ、自分たちが滅ぼされると思っているらしく、放射能やHIVを使って彼らの人口を減らそうとしているんだ。まあ、欧米人の被害妄想もわからなくもないが、人間以外の動物にとっても、いい迷惑さ。我々までも、殺されてしまう。何かいい方法はないか、考えてはいるんだが」

 

 悲壮な顔つきになったスパイダーがうなだれていると白いピースと黒い卑弥呼女王がゆっくりと歩きながらベンチに近づいてきた。風来坊がカーと言って声をかけるとスパイダーはヒョイと頭を持ち上げ、振り向いた。彼女たちがベンチ横までやってくるとニコッと笑顔を作ったスパイダーは、ピョンと跳び降り席を譲った。「どうぞ、どうぞ、お座りください」ピースは卑弥呼女王に声をかけた。「ヒミコ様、お先にどうぞ」卑弥呼女王がヒョイと跳び上がりベンチに腰かけた。次に、ピースもヒョイと跳び上がり卑弥呼女王の隣に腰かけた。

ピースは久しぶりに会った風来坊に尋ねた。「いったい、どこに行ってたの?里帰りでもしてたのかしら?」ニコッと笑顔を作った風来坊は、甲高い声で答えた。「里帰りってわけじゃないんだけど、ちょっと仲間から情報を手に入れるために、江戸に帰っていたんだ。我々、カラスエージェントは結構忙しいんだ。動物たちを守るために日夜頑張っているからな。カラスは神の使いだから、当然のことをやってるだけなんだけどね」

 

目を丸くして驚きの表情を見せたピースは、感謝のお世辞を言った。「あら、そうでしたの。カラスは賢いとは思っていましたが、風来坊さんって、神の使いだったのですか。まことにご苦労様です。そこで、神の使いのカラスさんたちにお願いなんだけど、最近、地震、津波、台風、大雨、などの天災が多いじゃない、これって、どうにかならないのかしら。神の使いだったら、神通力とやらで、未然に防げるんじゃない。人間は、頼りにならないのよね~~」

 

風来坊は、なんと無茶を言う猫かとあきれてしまった。風来坊は、顔をブルブルと激しく振り、答えた。「ピースさん、無茶を言ってはいかん。我々、神の使いは、天災を予知することはできても、天災を防ぐことはできん。しかも、最近の天災は、かなり厄介なんだ。最近、予知が難しい天災が起きているんだ。もしかすると、天災じゃなくて人工的な災害かもしれないんだ。そこで、エージェント仲間と今後の活動について話し合っているところなんだ」

ピースは、予知が難しい天災があるのだったら、やっぱ、神の使いじゃないと思えてしまった。「あら、風来坊さん、本当は予知できないんじゃなないの。神の使いだったら、どんな災害でも、完璧に予知できるはずじゃない」風来坊は、予知を疑われて頭に血が上ってしまった。顔を真っ赤にした風来坊は、血走った眼で返事した。「何をおっしゃる。我々は、今までに数多くの天災を予知し、動物たちの命を救ってきたんだ。まあ、我々は、動物たちに感謝されなくとも、神はちゃんと見ていてくれるからいいんだけどさ」

 

じっと耳をそば立て話に聞き入っていた卑弥呼女王が話し始めた。「そう、御謙遜なされなくともいいですよ。私は、カラスさんたちの働きをちゃんと知っています。確かに、多くの動物たちは、カラスさんたちの予知のおかげで助かっています。これからも、動物たちを助けてあげてください。ところで、一昨年、熊本で地震が起きましたが、あの地震は、予知できましたか?」

 

風来坊は、眉間に皺をよせ腕組みをすると大きくうなずき返事した。「東日本の地震も熊本の地震も予知できたのだが、どうも、今までの地震と違うんだ。我々は、地震を予知して、仲間が動物たちに知らせるんだが、最近の地震は、いつもより早くS波がやってくるんだ。だから、かなりの動物たちが逃げ遅れて死んでしまった。だから、今後の救済対策を考えているところなんだ」

スパイダーはここぞとばかり風来坊に食って掛かった。「神の使いだったら、もっとしっかりやってくれよな。僕たちには、予知能力なんてものはないんだから」風来坊は、面目ないという表情で謝った。「おっしゃる通り。まったくもって、不甲斐ない。我々は、最高の予知能力を持っていると自負していたんだが、この機会に予知能力の向上を図るために、各国に予知能力研究委員会を作り、毎年一回、全国予知能力会議を開くことにした。最近の奇妙な災害に対する明確な予知が必ずあるはずなんだ。必ず、発見してみせるから、いましばらく待ってくれ」

 

ピースは、今までにない奇妙な天災が続いていることに疑問を抱いていた。風来坊の話を聞いて、やはり、これらは天災ではなく、人工災害ではないかとピンときた。「最近の災害は、どうも腑に落ちないのよ。アメリカにもエージェント仲間がいるんでしょ。彼らは、なにかつかんでないの?」風来坊は、しばらく黙っていたが、ヒューストンエージェントの仲間から聞いた情報を話すことにした。

 

「ピースさんも、不審に思っておられましたか。まだ、はっきりとしたことはわからないのですが、ヒューストンエージェントの仲間からの情報では、北アメリカ、南アメリカ、などに起きた災害の予知に共通するものがあり、いつもの天災の時の予知とは違うとのことなんだ。もしかすると、最近の災害は、気象兵器によるものではないか?と彼らは言うんだ。とにかく、一刻も早く、奇妙な災害に対する予知能力を研究し、動物だけでなく人間も救わなければならん」

 

春日信彦
作家:春日信彦
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