オーディション

神の使い

 

 1021日(土)、昨日まで雨続きであったが、青空が広がる秋晴れとなった。風来坊は糸島市曽根にあるオリーブ平和公園の上空を旋回し、能天気なスパイダーがやってくるのを待っていた。10時をちょっと過ぎたころスパイダーがシッポを振り振り、キョロキョロとあたりを見渡しながら公園に小走りでやってきた。公園の黄色いベンチにひょいと跳び乗り、顔を持ち上げ青空で気持ちよさそうに飛んでいる白いカラスに目をやった。ワンワンと風来坊に挨拶すると風来坊はカーカーと返事した。

 

 ベンチの背もたれにふわりと舞い降りた風来坊は、スパイダーに挨拶した。「元気そうじゃないか。相変らず、人間にしっぽを振って、かわいがられているみたいだな」スパイダーは、嫌味な奴だと思いつつ返事した。「まあな、イヌってものは、ご主人様に仕えていれば、おいしいエサにあずかることができるからな。まあ、人間が捨てたごみを食って生きているカラスよりは、マシな暮らしができるってものだ。人間様に感謝してるよ」スパイダーは、いつも能天気だとバカにされているせいか、風来坊に嫌味を言った。

 

 風来坊は、スパイダーはかなりアホだと思っていだが、最近は、多少は気の利いたことを言うようになったと感心していた。そこで、イヌの知恵がどの程度のものか問答してみることにした。「ほ~~、人間様に感謝ネ~~。でも、人間に使えるってことは、気苦労が多いだろう。その点、カラスは、人間にアドバイスして感謝されているんだ。神の使いのカラスがいなければ、おそらく、目先のことしかわからない人間はとっくの昔に滅びていたんじゃないかな。イヌは人間からエサをもらっているわけだから、カラスはイヌも救ってやっていることになる。そう考えると、イヌにも感謝されていいということだな」

スパイダーは、カラスに予知能力があるからと言って、カラスは神の使いなどと言ってドヤ顔をしている風来坊を見ていると頭をガブリと食いちぎりたくなった。だが、ちょっと大人になったスパイダーはグッと気持ちを抑えて、もう少し風来坊の自慢話を聞いてやることにした。上から目線の風来坊にムカついていたスパイダーではあったが、気持ちを落ち着かせて謙虚な気持ちで尋ねた。「人間にアドバイスできるそうだが、どんなことをアドバイスするんだい」

 

ドヤ顔の風来坊は、胸を張って自慢話を始めた。「まあ、イヌの頭ではわからんと思うが、まあ、聞くがいい。そう、ほら、イヌでもビビッてしまう地震なんかそうだ。カラスは、地震が来るのを予知できる。だから、カラスたちは、カーカーと言って鈍感な人間どもに教えてあげるんだ。敏感な動物は、知らせを聞いてすぐに非難するが、おバカと言うか、聞く耳を持たないというか、高慢ちきな人間は、カラスの知らせを無視するものだから、大騒ぎをするばかりで、逃げ遅れて死んじまう」

 

 スパイダーは、風来坊こそバカだと思った。「風来坊、君の方こそバカじゃないのか。人間は、カラス語などわかるはずがない。人間は、イヌ語もネコ語もわからないんだ。人間は、知能が高いようで、かなりバカなんだ。困ったものさ」風来坊もそのことはわかっていたが、さらに、話を続けた。「人間が、おバカなのは重々承知さ。放射能汚染もカーカーと言って教えてあげたんだが、まったく聞く耳を持たない。人間は、立派な大脳を持っているんだが、使い方を知らんと言うべきなのか、命を救うことに使わず、真逆の殺人に使っておる。まったく、正気の沙汰じゃない」

スパイダーもその点に関しては、同感だった。「まったく、困ったものだ。人間は、殺人を娯楽の一つとしている。同じ動物として、恥ずかしいったらありゃしない。風来坊、人間を教育してくれないか。イヌやネコには、手に負えん。人間同士の殺し合いならまだいいが、人間にご奉公しているイヌやネコまでも殺すんだよ。地球を救えるのは、カラスさんたちしかいないように思う。頼むから、人間をどうにかしてくれ。このままじゃ、地球上の生物は、すべて滅びてしまう」

 

 しかめっ面になった風来坊は、しばらく考え込んでいた。原爆実験、原発事故による放射能汚染、HIVの蔓延(まんえん)、これらのことを考えるとお先真っ暗になってしまった。「そういわれてもな~~。カラスにできることは、アドバイスすることだけなんだ。欧米人たちは、アフリカ人やアジア人が増え続ければ、自分たちが滅ぼされると思っているらしく、放射能やHIVを使って彼らの人口を減らそうとしているんだ。まあ、欧米人の被害妄想もわからなくもないが、人間以外の動物にとっても、いい迷惑さ。我々までも、殺されてしまう。何かいい方法はないか、考えてはいるんだが」

 

 悲壮な顔つきになったスパイダーがうなだれていると白いピースと黒い卑弥呼女王がゆっくりと歩きながらベンチに近づいてきた。風来坊がカーと言って声をかけるとスパイダーはヒョイと頭を持ち上げ、振り向いた。彼女たちがベンチ横までやってくるとニコッと笑顔を作ったスパイダーは、ピョンと跳び降り席を譲った。「どうぞ、どうぞ、お座りください」ピースは卑弥呼女王に声をかけた。「ヒミコ様、お先にどうぞ」卑弥呼女王がヒョイと跳び上がりベンチに腰かけた。次に、ピースもヒョイと跳び上がり卑弥呼女王の隣に腰かけた。

ピースは久しぶりに会った風来坊に尋ねた。「いったい、どこに行ってたの?里帰りでもしてたのかしら?」ニコッと笑顔を作った風来坊は、甲高い声で答えた。「里帰りってわけじゃないんだけど、ちょっと仲間から情報を手に入れるために、江戸に帰っていたんだ。我々、カラスエージェントは結構忙しいんだ。動物たちを守るために日夜頑張っているからな。カラスは神の使いだから、当然のことをやってるだけなんだけどね」

 

目を丸くして驚きの表情を見せたピースは、感謝のお世辞を言った。「あら、そうでしたの。カラスは賢いとは思っていましたが、風来坊さんって、神の使いだったのですか。まことにご苦労様です。そこで、神の使いのカラスさんたちにお願いなんだけど、最近、地震、津波、台風、大雨、などの天災が多いじゃない、これって、どうにかならないのかしら。神の使いだったら、神通力とやらで、未然に防げるんじゃない。人間は、頼りにならないのよね~~」

 

風来坊は、なんと無茶を言う猫かとあきれてしまった。風来坊は、顔をブルブルと激しく振り、答えた。「ピースさん、無茶を言ってはいかん。我々、神の使いは、天災を予知することはできても、天災を防ぐことはできん。しかも、最近の天災は、かなり厄介なんだ。最近、予知が難しい天災が起きているんだ。もしかすると、天災じゃなくて人工的な災害かもしれないんだ。そこで、エージェント仲間と今後の活動について話し合っているところなんだ」

春日信彦
作家:春日信彦
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