エロゴルフ(1)

植木は、突然現金になって、笑顔で話し始めた。「本契約は、いつにいたしましょうか?早い方が。コンパニオンとデートしながらのラウンドか!来月にも、タイに行きたいですね、会長」松山の頭はエロエロになってしまい、タイの社会情勢のことなどまったく考えていなかったが、テロのことがちょっと心配になった。「おい、浮かれるのもいいが、タイの治安に問題はないのか?テロに出くわすってことはないだろうな」植木にとって治安のことなどどうでもよかった。「心配ありませんよ。タイは治安がいいそうです。二泊三日で、来月当たりどうです?」

 

915日(金)午前11時、松山と植木は、本契約ために雷山の別荘で大原の訪問を待っていた。ピンポ~~ン、ピンポ~~ン、チャイムの音を聞いた二人は、偶然にも同時に跳びあがった。「おい」松山が声をかけると、植木は即座に玄関にかけて行った。松山は借りてきた猫のようにソファーの横で両手を前にそろえて巨乳の大原を待った。植木のパタパタと響くスリッパの足音に気を取られていると、大原は彼女よりも若く、ゴールドのショートヘアで引き締まった脚の女性を従えてリビングに現れた。松山は、ホテルのドアマンのように、即座に笑顔を作り挨拶した。「お待ちしておりました。さあどうぞ」

 

中央のソファーに腰かけた大原は、左隣に腰かけたショートヘアの女性を紹介した。「こちらは、今年の4月に入社しました宮里です。今後、お二人のお世話をすることになると思いまして、同行させました。早速、お電話いただきまして、誠にありがとうございます。ご契約にあたりまして、まず、タイ法人皇帝ゴルフ俱楽部の約款のご説明をさせていただきます。こちらが弊社の約款になっておりますが、特に重要な点について分かりやすく記載されています“ご契約のしおり”がこちらにございますので、こちらのしおりでご説明させていただきたいと思います」

 

松山は、コンパニオンのことが分かれば、法律的なことはどうでもよかった。「しおりは後で読ませていただきます。早速、契約書にサインいたしましょう」大原は、左隣の宮里から4通の書類を受け取り、巨乳の谷間がよく見えるように前かがみになり、松山と植木の正面にそれぞれ二通ずつ差し出した。「こちらにご住所とご署名をお願いします。それと、御印鑑をこちらとこちらの2か所にお願いします」エロ攻撃を食らった二人は書面の内容に目を通さず、そそくさと署名と押印を終えた。大原はエロジジイゲットと心の中でつぶやき、それぞれ一通ずつ二人から契約書を引き取った。「そちらは、松山様と植木様の契約書となっております」二人は、手元にある契約書にチラッと目をやると、即座に大原の巨乳の谷間に目を移した。

大原は宮里に2通の契約書を手渡すと即座に話し始めた。「代金はご用意いただけましたでしょうか?」松山は、植木の分を合わせて、200万円の小切手を切る準備をしていた。「はい、小切手でお願いします」松山は、200万円と記載された小切手を彼女の前に差し出した。丁寧な字で領収証を切った彼女は松山にそれを手渡した。彼女は満足げな笑顔を見せると話し始めた。「ゴルフ俱楽部会員の特典については、先日お話いたしましたが、なにか、気になる点はございませんか?今後は、宮里と私が松山様と植木様の窓口になりますので、ご遠慮なくご要望を御申しつけくださいませ」

 

ソワソワしていた植木がツアーについて質問した。「早速ですが、来月当たり、どうなんでしょうか?人気があるみたいですから、半年待ちぐらいでしょうか?」彼女は、じらすように少し間をおいて返事した。「いえ、いかなる場合でも会員様のご要望にお応えできるだけのゴルフ場を保有しております。万が一、タイのゴルフ場がいっぱいでも、ベトナム、フィリピンにも多数ゴルフ場を保有していますので、ご希望の日程でのご案内が可能です。今月ですと、29日(金)から三泊四日のタイツアーがございます。いかがでしょうか?」

 

植木は身を乗り出し、松山の顔色をうかがった。松山も行きたい気分であったが、月末の予定を確認しなければ返事ができないと思えた。「それは、急なことですね。二人ともパスポートはあるので、行くことは可能ですが、スケジュールを確認しないことには何とも返事しかねます」彼女は、笑顔で返事した。「松山様のご希望される日程で、どのようなツアーも可能ですから、御都合がつく日程がお決まり次第ご連絡ください」

 

植木は、今回のツアーにどのような会員がいくのか興味があった。「ちょっとお聞きしてもよろしいですか?そのツアーには、どのような方が参加なされていますか?差し支えなければお教え願いたいのですが」彼女は隣の宮里に視線を向けると一つ頷いた。阿吽(あうん)のタイミングで宮里はホワイトのバッグからファイルを取り出し、大原に手渡した。資料を見つめた大原は、一呼吸おいて返事した。「確かに、参加者のことが気になられる会員様もいらっしゃいます。個人情報に当たりますので詳しくは申し上げられませんが、A財務大臣、N 経済産業大臣、 その秘書2名、プロ野球のG監督とS監督、です。今回のツアーは、8名とさせていただいておりますので、あと2名のみの参加が可能ということになります。くれぐれも、このことは、ご内密にお願いいたします」

植木は眉間に皺をよせ、何か考えているようであった。「2名のみですね。今のところは、まだ決まっていないということですね」大原は、軽くうなずいた。「日本オープンに出場されたことのある松山様の参加であれば、先生方も監督も歓迎されることだと思います」植木が、ドヤ顔を作り質問した。「少し考えさせてください。返事は火曜日には致します。ところで、宮里さんもセールスレディーでいらっしゃるのですか?」大原はほんの少し微笑み隣のショートヘアの宮里の役職を説明した。「彼女は、通訳とガイドを担当しています。A 大臣の御指名で、今回のツアーにも参加いたします。ゴルフはシングル級ですのよ。ね、宮里さん」

 

松山は、シングルと聞いて身を乗り出した。「へ~~、シングルですか。ハンデはおいくつですか?」宮里はシングルと紹介されて顔を赤らめてしまった。「シングルと言っても、大学でゴルフ部だったという程度でたいしたことはないんです。大原さんが、大げさに言っているだけです」松山は、ゴルフ部であれば、かなりの腕だとにらんだ。「それでは、今回のツアーで、大臣たちと御一緒にプレーなされるんですね」

 

宮里は、パッと笑顔を作り返事した。「はい、プレーいたします。どういうわけか、先生に気にいられまして。先生は、野球選手とゴルファーにとても好意を持たれておられます。もし、トップアマの松山様がご参加なされるのならば、先生は、とても歓迎されると思います」植木が、身を乗り出し松山の自慢話を始めた。「会長は、糸島中学ゴルフ部特別顧問をなされていて、ジュニアの育成にも力を入れておられます。糸島では、ちょっとした有名人なんです」

 

マジな顔つきになった松山は、宮里をじっと見つめた。「今回のツアーに参加できるかどうか分かりませんが、いつか機会がありましたら、ご一緒にプレーいたしましょう」宮里は、満面の笑みを浮かべ返事した。「ぜひ、お願いいたします。トップアマの方とラウンドできるなんて、夢みたいです。よろしくお願いいたします」大原は、笑顔を宮里に向けると声をかけた。「よかったわね。今日うかがったかいがあったわね。それでは、松山様と植木様のご返事を心待ちにしております。この辺で失礼いたします」彼女が立ち上がると宮里も即座に立ち上がった。

不吉な予感

 

彼女たちが去ったリビングには、体臭と香水がブレンドされた甘い香りが漂っていた。すでに行くつもりになっていた植木は、能天気な笑顔で松山に確認した。「会長、行かれますよね。またとない、絶好の機会です。早速、準備いたしましょう」行く気にはなっていたが、松山は、笑顔を作らなった。なぜか、漠然とした不安がよぎっていた。「まあな、行ってもいいが、どうもな~~。何か、引っかかるんだ。何かが?」

 

植木は、松山の言っている意味がさっぱり分からなかった。「いったい、何が、引っかかると言うんです。日本には、絶対ない、最高のサービスじゃないですか。しかも、大臣とラウンドできるかもしれないんです。こんな機会は、二度とないかもしれませんよ」松山は、腕組みをして天井を見つめた。「ウ~~」とうなり声をあげると考えていることを話し始めた。「どうも解せないんだ。大臣が、プロ野球の監督たちと旅行するのは、分からなくもないが、どこの馬の骨ともわからない俺たちのような庶民と旅行に行くだろうか?おまけに、俺のエサみたいなシングル級の若くてかわいいガイドのお目見えときてる。ちょっと、できすぎてりゃしないか?何か、引っかかる」

 

植木は、即座に懸念を打ち消すかのように反論した。「何をおっしゃります。会長は、トップアマとして有名じゃないですか。そこを見込んで誘ってくれたに違いありません。他では体験できないラウンドを提供するのが、皇帝KGBゴルフ倶楽部のいいところじゃないですか。ちょっと、考え過ぎじゃないですか?素直に、幸運を受け入れましょうよ。かわいいピチピチコンパニオンが待ってるんですよ。迷うことなど、ありませんよ」そのようにご機嫌を取られた松山だったが、心に漂う不吉な予感は消えなかった。

 

植木は、松山の気持ちの方向を変えようとゴルフの話を持ちかけた。「最近、うまくなったでしょ。会長のアドバイスのおかげです。ついに、90が切れるようになりました。ウッドを短く持って、着実に前進して、ボギーを確実に取れ、とアドバイスいただき、最近は、まぐれでパーも取れるようになりました。夢みたいです。ショートウッドがあれば、ダフリのアイアンなんて、いりませんね。みんなもショートウッドを使えばいいのに。やっぱ、見栄を張ってるんですかね」

春日信彦
作家:春日信彦
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