エロゴルフ(1)

付き合いゴルフ

 

伊達は、ゴルフをやったことがない沢富を強引に引き連れて西区にあるアコーディアゴルフ練習場に来ていた。先日、伊達はF大学からの親友、岡崎にゴルフを誘われていた。岡崎は親友だから、断ったからと言って不仲になるようなことはなかったが、断れない理由があった。と言うのは、伊達の細君、ナオコの父親と岡崎の父親は、不動産売買で裏取引をやっていた。ナオコの父親からプレゼントしてもらったマンションは、岡崎の父親の計らいで、帳簿価額以下で購入したものだった。そのこともあり、ナオコの父親の顔を立てるためにも、岡崎の機嫌を損ねるわけにはいかなかった。

 

カウンターで1F30番と31番を取った伊達は、嫌がる沢富の背中を押しながら練習場内に入って行った。伊達は、キャディーバッグを30番に置くと沢富にピッチングを手渡した。「おい、そ~、イヤな顔をするな。食わず嫌いは、よくないぞ。とにかく、やってみろ。やっているうちに、面白くなるのが、ゴルフってもんだ。俺だって、恥をかきながら、やってるんだ。とにかく、打ってみろ」沢富は、左手に手袋をするとピッチングを右手に取り座席に立った。一度、目の前のミニスカ少女の張りのあるお尻をチラッと見て、大きなテークバックから思いっきり振り下ろした。ビューと音はしたが、ボールはそのままだった。も一度振るとヘッドの先にあたり、右方向にコロコロと転がった。

 

沢富の目の前では、ミニスカ少女が大きなお尻を突き出し、ゆっくりとテークバックしながら肩を目いっぱいひねっていた。ダウンスイングに入り一気に振り下ろすとバシッと音をたてたボールは、まっすぐ200ヤードほど飛んで行った。愕然とした沢富は、ミニスカ少女にバカにされるようで即座に打つのをやめた。「先輩、当たりませんよ。もう、いいです。先輩、練習してください」伊達は、クスクスと笑いながら、返事した。「最初から、当たりっこないさ。俺なんか、何度、空振りしたことか。まあ、俺の打つのを見てろ」伊達は、ドライバーを手に取ると、大きなスタンスで、テークバックした。一気にダウンスイングに入ると「カ~~ン」と快音を響かせたボールは、大きくカーブを描いて右方向に飛んで行った。当たりはよかったが、強烈なスライスだった。

 

「またか」とつぶやき、伊達は、がっかりした表情を作り、沢富に話かけた。「まあ、ゴルフとは、こんなもんだ」沢富は、あんなに曲がっては、ラウンドしてもゴルフにならないのではないかと同情心が起きた。「先輩、ゴルフってものは、誰が考えたんでしょうね。こんなに小さなボールを小さなヘッドでまっすぐ打つなんて、そもそも、凡人には、出来っこありませんよ。プロは、モンスターですよ。野球もろくにできない僕なんかがやるスポーツじゃありません。先輩も諦めたらどうです?」伊達は、ドスンと椅子に腰を落としがっかりした表情を見せた。「まったく、どうして、まっすぐ飛ばね~んだ。くそ~~。そういっても、付き合いってもんがあるし。断るわけには、いかないんだよな~~」

ゴルフをやりたくないという本心を知った沢富は、伊達が気の毒になってしまった。「先輩、プロだって、最初は当たらなかったはずです。とにかくやっていれば、当たるようになるかもしれません。よし、かっ飛ばしてやる」沢富は、ミニスカ少女がキャディーバッグを担いで帰りかけたのをチラッと見て、ホッとした表情でもう一度座席に立った。何度か、ピッチングを振ったが、やはりまともにあたらなかった。「やっぱ、ダメです。僕には、スポーツの才能がないんです」

 

 伊達は、じっと沢富のスイングを見ていた。「まあ、そう嘆くな。パターは、誰だってできる。とにかく、グリーンまでボールを転がせば、なんとかなる。おい、9番ウッドで打ってみろ。これなら、きっと当たる。まず、見本を見せるから、よ~~く、見てろ」伊達は、9番ウッドを手に取り、座席に立った。少し短く持ち、コックをせずに、ヒョイと持ち上げハーフスイングした。ピシッと音がすると100ヤードほどまっすぐ飛んだ。目を丸くした沢富は、「ウォー」と言って拍手した。

 

 「先輩、まっすぐ飛んだじゃないですか。僕もやってみます」沢富は、9番ウッドを手渡されると伊達をまねしてハーフスイングした。ピシッと音がすると100ヤード以上飛んだ。「オ~~。見ました?先輩。まっすぐ飛びましたよ。僕って、天才かも?」伊達は、ゴルフでよくある能天気な発言に苦笑いした。「まあ、その調子だ。とにかく、前に進めばいいんだ。サワが、一緒に来てくれれば、気が楽だ」

 

 気をよくして腰かけた沢富は、スライスが治らず、気落ちして座席でうなだれている伊達に話しかけた。「先輩、ロシア皇帝KGBカンパニーのうわさ、聞いてますか?なんでも、中洲にカジノを作るらしいです。東京かと思っていたのに、よりによって、中洲とは。しかも、風俗産業にも手を広げるらしいです。中洲のソープ嬢は、どうなるんですかね」伊達は、ついに日本も攻撃の対象になってしまったと暗い顔になった。「もう、日本は、おしまいだ。ほとんどの基幹企業は、欧米の多国籍企業に買収され、日本の従業員は奴隷扱いだ。俺たち警察官も、いつリストラされるか分かったものじゃない。イヤダ、イヤダ」

沢富も日本政府の崩壊を直感していた。「先輩、それと、ここだけの話ですが、絶対に極秘ですよ。近々、大掛かりな警察組織の再編成が行われるそうです。国防機動隊と言う軍の組織のようなものができて、そこにかなりの警察官が配置換えされるそうです。さらに、女性警察官を大量に採用するみたいです。どういうつもりですかね。どうも、CIAの構想らしいですよ」肩を落とした伊達は、悲壮な顔でつぶやいた。「ついに警察官まで兵隊にされるのか。軍国主義日本だな」

 

沢富は、日本の文化を守るためにも護憲運動をすべきだと考えていた。「先輩、今こそ、警察官が護憲運動をすべき時なのです。平和憲法を守りましょう。軍国主義を許してはいけません。クビになるのを恐れていては、奴隷と同じです。闘いましょう、真の独立を目指して、闘いましょう。日本丸を沈没させてはダメです。日本丸を救う救世主がきっと現れます。諦めては、いけません」伊達は、目じりを下げていたが、ふと、岡崎の言っていたことを思い出した。「岡崎が言っていたぞ、日本のことを真剣に考えているハゲのトップアマが糸島にいるって。そうさ、救世主は、きっと現れる。よっしゃ~~、クビが怖くて、日本が救えるか!」と気合を入れた伊達は、目を輝かせ座席に立った。

 

 使ったことがない筋肉を強引に使ったため、脚腰に痛みが走り始めていた。沢富は、悲鳴を上げた。「あ~~、痛い。もう、いいです」伊達も上達しない自分に嫌気がさしていた。伊達は絶望感が漂う声で話しかけた。「もう、この辺にしとこう。俺も、疲れた。クラブは、俺のクラブを貸すから、頼むな。ティーショットに4番ウッド、セカンドは9番ウッド、寄せにウェッジ52、それとパターがあれば、ラウンドできる」沢富は、恥をかくために行くようなものだから行きたくはなかったが、伊達が気の毒に思えてついて行くことにした。眼下に広がる西区の住宅街を眺めながら待っていたブルーのハスラーは、能天気な二人を乗せると、ブルルンル~~ンと笑い声をあげて、バイパス202を東に向かって走って行った。

 

春日信彦
作家:春日信彦
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