エロゴルフ(1)

松山は、ほぼ毎日、ストレートのブランデーをゆっくりとすこしずつ飲む。カウンターから戻ってきたスリムなホステスは、グラスにブランデーを注ぎ、氷を入れようとした。松山は、即座に声をかけた。「いや、氷はいい」ホステスは、おどおどしてグラスを手渡した。グラスを受け取った松山は、香りを嗅ぐとゆっくりと口に含んだ。植木は、腕時計を見ては、しかめっ面をしていた。すでに、810分を過ぎていた。植木が、待ち合わせ時間を勘違いしたのではないかと考えていると腕の長いヒョロッとしたイケメン男性とともに岡崎がやってきた。

 

「いやー、待たせたね。ゴメン、ゴメン」二人の正面に岡崎とイケメン男性が腰かけると岡崎は、イケメン男性を紹介した。「こちらは、中洲総合病院の吉岡先生」松山と植木が視線を向けると背筋を伸ばし両手を膝の上にそろえ吉岡は挨拶した。「吉岡と申します。岡崎君とは、小学校からの親友です。よろしくお願いします」生真面目な吉岡を気遣って、岡崎は場を盛り上げようと博多弁で話し始めた。「吉岡は医者の息子で、秀才たい。中学は、鹿児島の名門R中学に行くことになっとったバッテン、こいつは、義理と人情に厚い奴たい。親に反対して、俺と一緒の中学にいったばい。でも、さすが吉岡、地元T高校からK 大学医学部たい。こいつは、たいしたもんばい。それに、イケメンやし。めっちゃ、モテルけん。うらやましか~~」

 

植木は、吉岡を見つめうなずいた。「お医者さんでいらっしゃるんですね。毎日、気苦労が絶えないでしょうね。こちらは、伊都タクシーの松山会長です。私は、専務の植木です。よろしくお願いします」医者と聞いた植木は、吉岡から議員の話が聞き出せるのではないかと思い、酔いが回ったころ、徐々に聞き出すことにした。「岡崎さんは、今朝東京から戻られたそうで。やはり、お仕事で」岡崎は、頭をかきながら返事した。「まあ、仕事と言えば、かっこいいのですが、同じジャーナリスト仲間から極秘情報とやらを入手しに、まあ、そんなところです」

 

植木か政治の話を始めるのではないかと懸念した松山は、話に割り込んだ。「固い話は、つまらん。吉岡さんもゴルフをなされるそうで」突然笑顔を作った岡崎が、吉岡の返事を待たず話し始めた。「やりますとも。吉岡は、なかなかのもんです。834で回ります。私は、バクチゴルフですから、やっと、90切るぐらいです。松山様は、日本オープンに出られたトップアマでいらっしゃるとか。いつも、植木さんが、自慢されています」松山は、自分を売り込んだみたいで気まずくなったが、ゴルフの話で場を盛り上げることにした。

 

「まあ、ゴルフしか、能がないもので。健康のために、週に一回は、ラウンドしています。ぜひとも、御一緒にラウンドさせていただきたいものです」褒められた松山は、謙遜して返事した。高校からゴルフをやっている吉岡は、頭をかきながら返事した。「ゴルフ歴は長いんですが、一向に上達しません。ぜひ、ご教授をお願いします」植木は、ゴルフの話が出たついでに皇帝KGBゴルフ倶楽部会員について聞くことにした。「国際経済のことは、ちょっと疎いのでお聞きしたいのですが。岡崎さん、皇帝KGBゴルフ倶楽部と言うのをご存知ですか?私どもは、そこの会員権を購入いたしました。将来性はありますか?」

 

岡崎は、今、世界各国に攻勢をかけているロシア皇帝KGBカンパニーについての情報を集めていた。皇帝KGBゴルフ倶楽部会員権を日本でも多くの政財界人が購入しているということで、今後、日本のゴルフ産業が危機に陥ってしまうのではないかと懸念されていた。「そうですか。お宅様も会員に。皇帝KGBゴルフ倶楽部は、ロシア皇帝KGBカンパニーの傘下にあるレジャー企業の一つでして、そこの株価は急上昇しています。まだ、日本には進出していませんが、いずれ、日本法人皇帝KGBゴルフ倶楽部ができると思われます。そうなれば、競合に負けた日本のゴルフ企業は、ロシア皇帝KGBカンパニーの傘下に入ってしまうのではないかと危惧されています」

 

植木は、小さくうなずきながら、次の質問を考えていた。「そうですか。ロシア皇帝KGBカンパニーとは、有望株の多国籍企業と言うことですね。と言うことは、その傘下にある皇帝KGBゴルフ倶楽部の会員権価額は、上昇するとみていいですね」腕組みをした岡崎は、マジな顔つきになり返事した。「確かに、相場は上昇すると思います。そのことを見込んで世界中の資産家が、投資しています。余談ですが、ロシア皇帝KGBカンパニーは、アメリカの軍事企業や石油会社の株も買い占めています。そう、さらに、カジノ経営、風俗産業にも手を広げているようです。我々ジャーナリストの間では、ロシアモンスターと呼んでいます」

 

植木は、じっと耳を澄まして話に聞き入っていた。鋭い目つきから、突然、ニコッと笑顔を作ると質問した。「ところで、岡崎さんは、タイの皇帝KGBゴルフ倶楽部のコンパニオンについてお聞きになったことがありますか?」岡崎もニコッと笑顔を作り返事した。「聞いたことがあります。キャディーのほかにエロエロサービスのコンパニオンがつくらしいですね。なんとも贅沢な話です。私も、そういうところでプレーしたいものです。植木さんたちがうらやましいです。そう、吉岡も勧誘されたそうです。断ったそうですが」

植木は、断ったと聞いて、理由を知りたくなった。何か、隠された問題点があるのではないかと一瞬思った。「吉岡さんも、あの巨乳ロシア美人に勧誘されましたか?」吉岡は、照れくさそうに話し始めた。「はい、ロシア美人に勧誘されました。でも、医者には、タイでゴルフをするような時間がありません。芥屋でのゴルフも、やっと時間を作っているぐらいなんです。でも、知り合いの現役を退いた医者や代議士たちの中には、タイツアーに出かけているようです。うらやましい限りです」

 

特に問題点がないと推測できた植木は、ホッとした。ぶしつけな質問で失礼にあたると思ったが、質問することにした。「やはり、議員さんたちも会員に。ところで、吉岡さんには、懇意にされている議員さんがいらっしゃるのですか?」吉岡は、福岡県医師会が支援している議員と親しかった。そのほかに岡崎から紹介された議員とも親しかった。「まあ、数人の議員さんと懇意にしています。議員さんなら、岡崎の方が多いですよ」

 

岡崎の父親は、不動産会社の専務をしていた。その関係で政治家とのつながりを持っていた。話を振られた岡崎は、目を丸くして返事した。「いや、ま~、ジャーナリストと言うのは、因果な商売です。ちょくちょく、先生方とゴルフをご一緒させてもらっています。オヤジが、不動産関係の仕事をやっているもので、ご機嫌を取りに、接待してるわけです」植木には、松山の政界進出を考えた場合、ジャーナリストの岡崎と医者の吉岡は、大いに役立つと思えた。

 

植木は、感心したような顔つきでうなずいた。今後お世話になると考えた植木は、岡崎と吉岡をヨイショすることにした。ニコッと笑顔を作り、吉岡に話しかけた。「我々、趣味がゴルフと言うことで、意気投合ですね。ぜひ、お二人とプレーしたいものです。吉岡さんは、先ほど芥屋とおっしゃっていましたが、芥屋ゴルフ倶楽部には、よくいかれるのですか?」吉岡は、即座に答えた。「はい、芥屋ゴルフ倶楽部の会員です。岡崎と一緒に時々ラウンドしています。ぜひ、4人でラウンドいたしましょう。その折は、松山さん、ご教授お願いします」

 

岡崎は、松山のゴルフに対する考え方を参考にしたく、吉岡のせこいゴルフをからかうことにした。「聞いてください、こいつのゴルフは、石橋を叩くというか、刻みのよっちゃん、と呼ばれているんです。なんせ、ロングのセカンドで、グリーンまで約250ヤードもあるのに、7番ウッドでフェアウエーに必ず打つんです。肝っ玉が小さいというか、まったく、チャレンジ精神と言うものがないんですよ。松山さん、何とか言ってあげてください」松山は、クスクスと小さな笑い声を漏らし、笑顔を作った。「いや、ま~~、誰しもコース攻略があります。吉岡さんには、それなりの計算があって、クラブを選択されているんじゃ、ないですか。でも、冒険も、スリルがあって、いいものですよ」

 

人前でバカにされ、かなりムカついた吉岡は、岡崎を睨み付けた。吉岡は、神経質でミスするとかなり落ち込むタイプであるため、バクチのようなショットを嫌っていた。松山にコース攻略と理解してもらい、少し機嫌がよくなった。「さすが、会長は、トップアマでいらっしゃる。自分の技術の未熟さを理解してのクラブ選択なのです。こいつは、ディボットでも、スプーンで打つんですよ。正気の沙汰じゃありませんよ」松山は、二人の会話に吹き出しそうになった。仲がいいのか悪いのか、ここまで言い合えるのは、親友だからだと思った。

 

「まあ、そう、お互いの欠点を指摘しても、スコアはよくなりませんよ。吉岡さんのようにミスを減らすことも大切だし、岡崎さんのようにツーオン狙いで、チャレンジするのも大切です。とにかく、ゴルフは、コースを彼女と思って、あの手この手で攻略しながら、楽しくやればいいんじゃないですか。植木も、ショートウッドを使って、ようやく、90が切れるようになり、ゴルフが面白くなってきたみたいですよ」松山はシングルだから、技術的なことを指摘するとてっきり岡崎は思っていた。ところが、まったく意に反して、コース攻略の観点から上手に教授したことに感銘してしまった。

 

「さすが、トップアマの松山さん。凡人とは、わけが違う。ゴルフ哲学をお持ちなんですね。我々なんか、ゴルファーのうちに入ってませんな」岡崎が、マジな顔つきで返事すると、隣のピンクヘアのホステスが岡崎をイジルかのように松山に話しかけた。「会長さん、真面目そうな顔をしているけど、オカちゃんって、エロエロなんだから。チョ~さわり魔。ネ~、オカちゃん」岡崎は、突然エロの実態を暴かれ顔を真っ赤にした。「おい、まあ~、エロには間違いないが、触られて喜んでいるくせに」ピンクヘアのホステスは「モ~~」とよがり声をあげて、唇を突き出し岡崎の頬にキスをした。

春日信彦
作家:春日信彦
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