エロゴルフ(1)

国会議事堂に届くほどの植木の雄叫びが響いた。「やりましょ~~、会長。今こそ、大和魂の時です。このままでは、日本は、沈没します。政界に打って出るのです。本来の自民党に変革するのです。会長のためなら、死んでも本望です」松山は、あまりの大声に度肝を抜かれてしまったが、平静さを取り戻すと、突如耳に飛び込んできた政界と言う言葉に首をひねった。「おい、俺は、政治家になるとは、一言も言った覚えはないぞ。田舎ジジイが国会議員になれるものか。とにかく、伊都タクシーを守ることだ」

 

植木は、どうにかして松山を政治家にしたかった。そのために、知り合いのジャーナリスト、作家、企業役員などに協力を要請していた。「会長、弱気じゃいけません。沈没し始めた日本は、松山会長と言う救世主を必要としているのです。日本のため、伊都タクシーのため、一念発起してください。根回しは植木に任せてきください。私には、ジャーナリストや作家の知り合いもいます。必ず、会長を国会議員にして見せます。とにかく、当たって砕けろ、です」

 

松山は、植木がここまで能天気だとは思わなかった。まったく、政界とはつながりのない田舎ジジイでは、立候補もできないと思ったが、植木の心意気に感謝し、適当に賛同することにした。「そうか、俺のことを、そこまで思ってくれているとは、ありがたい。政界のことは、植木に任せるとして、ここ最近、千秋とラウンドしてないな~~。やっと、ドライバーは、曲がらなくなったが、アイアンはさっぱり進歩しとらん。いっちょ、ラウンドするか」

 

 植木は、会長の政界進出には、千秋社長の後押しが必要と考えていた。現政権の不甲斐なさに辟易している社長ならば、きっと、会長の政界進出に賛同するに違いないように思えた。また、社長の先輩たちには、大物の政財界人がいる。社長にも一肌脱いでいただければ、国会議員実現は可能と思えた。「千秋社長は、忙しくていらっしゃるのですよ。たまには、一息入れるのもいいですね。タイのゴルフツアーは、会長からお話しされた方がよろしいかと。ラウンドしながら、政界進出の件をお話しなされてはいかがでしょう。きっと、社長は、賛成されると思いますよ」松山は、千秋に左脚の使い方をどのように教えようかと考えていたが、政界と言う言葉が頭に響くと、不吉な予感がよみがえり背筋が冷たくなった。

クラブミニスカ

 

 植木の頭の中には、コンパニオンのオーラルサービスの妄想がますます膨れ上がり、股間は抑えきれないほど盛り上がっていた。このままでは、勢力旺盛な植木は眠れそうもなかった。「会長、今夜あたり、中洲っていうのはいかがでしょう。結構有名なAV 女優が東京からやってきているそうです。もう、予約でいっぱいだと思いますが、確かめてみましょうか?」松山も大原の美白巨乳と真っ赤なショーツが脳裏に焼き付いて興奮が収まらなかった。「スケベジジイには、目の毒だ。ロシア美人の股間を見せつけられたんじゃ、鼻血が出るところだった。それにしても、透き通る肌とは、あ~いうのを言うんだな。死ぬまでに一度でいいから、ロシア美人とやってみたいよな」

 

「予約には、ちょっと遅いとは思いますが、例の店、確認してみましょうか?」植木は、右手の小指を立てて、ニコッと笑顔を作った。松山は、金曜日で予約がいっぱいだとは思ったが、行きつけの店を当たらせることにした。「そうだよな。久々にカチンカチンだ。ちょっと、例の店、確認してくれ」植木は、ポンと手を叩き、スマホで即座に行きつけの店を確認した。行きつけの店は、予約でいっぱいだったため、中洲一番の超高級店に電話した。「会長、やはり、例の店は予約でいっぱいでした。バカ高い店は、予約できますが、いかがいたしますか?」

 

松山は、中洲で有名な最も高い店と聞かされ、ちょっとためらってしまった。松山が考え込んでいると、植木はF大学の後輩で、マージャン仲間のジャーナリストから聞いたクラブを思い出した。「会長、クラブはどうでしょう。知り合いから聞いたのですが、そこのママは、アムロに似た美人だそうです。知り合いに連絡を取ってみましょうか?」この興奮は、おさまりそうになかったが、植木の知り合いのジャーナリストに会ってみたくなった。「まあ、ソープは、いつでも行けるしな。その知り合いと飲むっていうのもいいんじゃないか。連絡とってくれ」

 

植木は、早速、ジャーナリストの岡崎に電話した。「会長、運良く、今朝東京から戻ったところで、今夜7時以降は、時間が取れるそうです。いかがいたします」松山は、即座にうなずいた。植木は午後8時にクラブで落ち合う約束を取った。「会長、今夜、8時の約束を取りました。それと、ゴルフ仲間の医者を紹介したいと言ってました。私は、仕事を終えて、別荘に6時に参ります」植木がそそくさと立ち去ると松山は座禅を組み瞑想にふけった。

午後六時半に二人は、伊都タクシーで西中洲の“クラブミニスカ”に向かった。親不孝ビルのエレベーターに飛び乗ると5階をプッシュした。エレベーターを降りると左手に“クラブミニスカ”のドアがあった。植木がドアを開けるとアフロヘアの背の高いボーイが声をかけた。「会員様でいらっしゃいますか?」植木が会員の岡崎と待ち合わせていると伝えると二人は右側奥のテーブルに案内された。二人がソファーに腰かけると即座に二人の超ミニスカのJKのような初々しいホステスが飛び込んできた。

 

子猫のようにすり寄り植木の手を取った小柄なホステスが話しかけた。「岡ちゃんのお友達ね。もう来ると思うわ。あちらの方は、すっごく渋いわね。社長さん?」植木は、子供のような顔つきのホステスに面食らったが、JKに手を握られたようで、股間が盛り上がってしまった。「こちらは、伊都タクシーの会長です。私は、会長の秘書のようなものです。よろしく」松山の横に腰かけたスリムなホステスが、大げさなお世辞を言った。「会長さん、ステキ。渋い男性に弱いの。ああ~~、濡れちゃう」

 

植木は、もっと洗練されたホステスのいるクラブと思っていたが、JKのようなホステスにどのように話しかけていいか戸惑ってしまった。松山も場違いな場所にやってきたというような顔をしていると、カウンターから真っ赤なロングドレスの女性が笑顔でやってきた。彼女がテーブルに近づくと小柄なホステスが甲高い声で彼女を紹介した。「こちらが、中洲ナンバーワンの美人ママ」ママは、軽くお辞儀すると二人の正面に腰かけ、挨拶した。「ママのナミエです。岡崎様から、お二人のことはうかがっております。もうしばらくお持ちください」ママは、二人のホステスに目配せするとカウンターに戻って行った。

 

松山は、クラブにしてはホステスが若すぎるのではないかと横の能天気な顔をじろっと見つめた。その視線に気づいた彼女は目を丸くして甲高い声を発した。「そんなに見つめちゃ、感じちゃう。はい、どうぞ」ウイスキーの水割りを差し出した。おじさんがJKをナンパしているようでちょっと気恥ずかしくなった松山だったが、無理に笑顔を作り返事した。「ありがとう。ウイスキーもいいが、ブランデーにしてくれ」クレームと受け取ったホステスは、顔を引きつらせ、即座に謝った。「申し訳ありません。すぐにブランデーをお持ちいたします」頭をぺこぺこと下げ、カウンターに向かっていった。

 

松山は、ほぼ毎日、ストレートのブランデーをゆっくりとすこしずつ飲む。カウンターから戻ってきたスリムなホステスは、グラスにブランデーを注ぎ、氷を入れようとした。松山は、即座に声をかけた。「いや、氷はいい」ホステスは、おどおどしてグラスを手渡した。グラスを受け取った松山は、香りを嗅ぐとゆっくりと口に含んだ。植木は、腕時計を見ては、しかめっ面をしていた。すでに、810分を過ぎていた。植木が、待ち合わせ時間を勘違いしたのではないかと考えていると腕の長いヒョロッとしたイケメン男性とともに岡崎がやってきた。

 

「いやー、待たせたね。ゴメン、ゴメン」二人の正面に岡崎とイケメン男性が腰かけると岡崎は、イケメン男性を紹介した。「こちらは、中洲総合病院の吉岡先生」松山と植木が視線を向けると背筋を伸ばし両手を膝の上にそろえ吉岡は挨拶した。「吉岡と申します。岡崎君とは、小学校からの親友です。よろしくお願いします」生真面目な吉岡を気遣って、岡崎は場を盛り上げようと博多弁で話し始めた。「吉岡は医者の息子で、秀才たい。中学は、鹿児島の名門R中学に行くことになっとったバッテン、こいつは、義理と人情に厚い奴たい。親に反対して、俺と一緒の中学にいったばい。でも、さすが吉岡、地元T高校からK 大学医学部たい。こいつは、たいしたもんばい。それに、イケメンやし。めっちゃ、モテルけん。うらやましか~~」

 

植木は、吉岡を見つめうなずいた。「お医者さんでいらっしゃるんですね。毎日、気苦労が絶えないでしょうね。こちらは、伊都タクシーの松山会長です。私は、専務の植木です。よろしくお願いします」医者と聞いた植木は、吉岡から議員の話が聞き出せるのではないかと思い、酔いが回ったころ、徐々に聞き出すことにした。「岡崎さんは、今朝東京から戻られたそうで。やはり、お仕事で」岡崎は、頭をかきながら返事した。「まあ、仕事と言えば、かっこいいのですが、同じジャーナリスト仲間から極秘情報とやらを入手しに、まあ、そんなところです」

 

植木か政治の話を始めるのではないかと懸念した松山は、話に割り込んだ。「固い話は、つまらん。吉岡さんもゴルフをなされるそうで」突然笑顔を作った岡崎が、吉岡の返事を待たず話し始めた。「やりますとも。吉岡は、なかなかのもんです。834で回ります。私は、バクチゴルフですから、やっと、90切るぐらいです。松山様は、日本オープンに出られたトップアマでいらっしゃるとか。いつも、植木さんが、自慢されています」松山は、自分を売り込んだみたいで気まずくなったが、ゴルフの話で場を盛り上げることにした。

 

春日信彦
作家:春日信彦
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