エロゴルフ(1)

植木は、気持ちを汲んでくれた松山に自分の思いを打ち明けることにした。「会長、ありがとうございます。今まで会長にお仕えしてきたかいがありました。会長に似て、千秋社長もたいしたものじゃないですか。会長と私は、死ぬまで同士です。死ぬまで愛し続けます。これからもよろしくお願いします」松山は、男の愛をうち明けられるとちょっと気持ち悪くなった。「おい、愛は、女だけにしてくれ。男同士の愛っていうのは、キモイぞ」

 

本音を打ち明けて顔を赤らめた植木は、福岡に攻勢をかけている外資系タクシー会社の話を始めた。「ところで、福岡市に一昨年攻勢をかけてきたモサドタクシーは、かなりの脅威ですね。糸島市に侵攻してこなければいいのですが。モサドタクシーには、AIが搭載されていて、かなりの人気を得ているそうです。福岡県タクシー協会の知り合いからの情報ですが、すでに、数社のタクシー会社が倒産寸前だそうです。うかうかしていると、伊都タクシーも、つぶされるかもしれません」

 

松山も外資系会社には、脅威を感じていた。特に、一昨年から、外資系多国籍企業が急増していた。CIA電力、SIS水道、DIA兵器、FBI 警備などの多国籍企業が日本の基幹産業に参入するようになり、日本企業は経営難に陥っていた。「まったく、困ったものだ。政府が、もっとしっかりしていれば、こんなことにはならなかった。日本の歴史も、文化も、すべて破壊されてしまう。もう、おしまいだ。だが、伊都タクシーは、死んでも守ってやる」

 

植木は、いずれ、日本人エリート政府も崩壊すると予測していた。外国人エリート育成のための外資系私立大学が建設され、旧帝国大学でさえも、私学化されつつあった。防衛費の占める割合は、急激に大きくなり、福祉の予算は、ますます縮小されている。また、ロッキード資本の国内軍事産業は、日本政府の支援も受け、着実に基幹産業に発展している。さらに、低賃金長時間労働やサービス残業などの不法な労働が黙認され、また、低賃金労働を許容する移民の増大により、多くの日本の若者たちは、職を失っている。窮地に陥った若者たちは、反戦を叫びながらも、やむなく軍人を志望するようになっている。

国会議事堂に届くほどの植木の雄叫びが響いた。「やりましょ~~、会長。今こそ、大和魂の時です。このままでは、日本は、沈没します。政界に打って出るのです。本来の自民党に変革するのです。会長のためなら、死んでも本望です」松山は、あまりの大声に度肝を抜かれてしまったが、平静さを取り戻すと、突如耳に飛び込んできた政界と言う言葉に首をひねった。「おい、俺は、政治家になるとは、一言も言った覚えはないぞ。田舎ジジイが国会議員になれるものか。とにかく、伊都タクシーを守ることだ」

 

植木は、どうにかして松山を政治家にしたかった。そのために、知り合いのジャーナリスト、作家、企業役員などに協力を要請していた。「会長、弱気じゃいけません。沈没し始めた日本は、松山会長と言う救世主を必要としているのです。日本のため、伊都タクシーのため、一念発起してください。根回しは植木に任せてきください。私には、ジャーナリストや作家の知り合いもいます。必ず、会長を国会議員にして見せます。とにかく、当たって砕けろ、です」

 

松山は、植木がここまで能天気だとは思わなかった。まったく、政界とはつながりのない田舎ジジイでは、立候補もできないと思ったが、植木の心意気に感謝し、適当に賛同することにした。「そうか、俺のことを、そこまで思ってくれているとは、ありがたい。政界のことは、植木に任せるとして、ここ最近、千秋とラウンドしてないな~~。やっと、ドライバーは、曲がらなくなったが、アイアンはさっぱり進歩しとらん。いっちょ、ラウンドするか」

 

 植木は、会長の政界進出には、千秋社長の後押しが必要と考えていた。現政権の不甲斐なさに辟易している社長ならば、きっと、会長の政界進出に賛同するに違いないように思えた。また、社長の先輩たちには、大物の政財界人がいる。社長にも一肌脱いでいただければ、国会議員実現は可能と思えた。「千秋社長は、忙しくていらっしゃるのですよ。たまには、一息入れるのもいいですね。タイのゴルフツアーは、会長からお話しされた方がよろしいかと。ラウンドしながら、政界進出の件をお話しなされてはいかがでしょう。きっと、社長は、賛成されると思いますよ」松山は、千秋に左脚の使い方をどのように教えようかと考えていたが、政界と言う言葉が頭に響くと、不吉な予感がよみがえり背筋が冷たくなった。

クラブミニスカ

 

 植木の頭の中には、コンパニオンのオーラルサービスの妄想がますます膨れ上がり、股間は抑えきれないほど盛り上がっていた。このままでは、勢力旺盛な植木は眠れそうもなかった。「会長、今夜あたり、中洲っていうのはいかがでしょう。結構有名なAV 女優が東京からやってきているそうです。もう、予約でいっぱいだと思いますが、確かめてみましょうか?」松山も大原の美白巨乳と真っ赤なショーツが脳裏に焼き付いて興奮が収まらなかった。「スケベジジイには、目の毒だ。ロシア美人の股間を見せつけられたんじゃ、鼻血が出るところだった。それにしても、透き通る肌とは、あ~いうのを言うんだな。死ぬまでに一度でいいから、ロシア美人とやってみたいよな」

 

「予約には、ちょっと遅いとは思いますが、例の店、確認してみましょうか?」植木は、右手の小指を立てて、ニコッと笑顔を作った。松山は、金曜日で予約がいっぱいだとは思ったが、行きつけの店を当たらせることにした。「そうだよな。久々にカチンカチンだ。ちょっと、例の店、確認してくれ」植木は、ポンと手を叩き、スマホで即座に行きつけの店を確認した。行きつけの店は、予約でいっぱいだったため、中洲一番の超高級店に電話した。「会長、やはり、例の店は予約でいっぱいでした。バカ高い店は、予約できますが、いかがいたしますか?」

 

松山は、中洲で有名な最も高い店と聞かされ、ちょっとためらってしまった。松山が考え込んでいると、植木はF大学の後輩で、マージャン仲間のジャーナリストから聞いたクラブを思い出した。「会長、クラブはどうでしょう。知り合いから聞いたのですが、そこのママは、アムロに似た美人だそうです。知り合いに連絡を取ってみましょうか?」この興奮は、おさまりそうになかったが、植木の知り合いのジャーナリストに会ってみたくなった。「まあ、ソープは、いつでも行けるしな。その知り合いと飲むっていうのもいいんじゃないか。連絡とってくれ」

 

植木は、早速、ジャーナリストの岡崎に電話した。「会長、運良く、今朝東京から戻ったところで、今夜7時以降は、時間が取れるそうです。いかがいたします」松山は、即座にうなずいた。植木は午後8時にクラブで落ち合う約束を取った。「会長、今夜、8時の約束を取りました。それと、ゴルフ仲間の医者を紹介したいと言ってました。私は、仕事を終えて、別荘に6時に参ります」植木がそそくさと立ち去ると松山は座禅を組み瞑想にふけった。

午後六時半に二人は、伊都タクシーで西中洲の“クラブミニスカ”に向かった。親不孝ビルのエレベーターに飛び乗ると5階をプッシュした。エレベーターを降りると左手に“クラブミニスカ”のドアがあった。植木がドアを開けるとアフロヘアの背の高いボーイが声をかけた。「会員様でいらっしゃいますか?」植木が会員の岡崎と待ち合わせていると伝えると二人は右側奥のテーブルに案内された。二人がソファーに腰かけると即座に二人の超ミニスカのJKのような初々しいホステスが飛び込んできた。

 

子猫のようにすり寄り植木の手を取った小柄なホステスが話しかけた。「岡ちゃんのお友達ね。もう来ると思うわ。あちらの方は、すっごく渋いわね。社長さん?」植木は、子供のような顔つきのホステスに面食らったが、JKに手を握られたようで、股間が盛り上がってしまった。「こちらは、伊都タクシーの会長です。私は、会長の秘書のようなものです。よろしく」松山の横に腰かけたスリムなホステスが、大げさなお世辞を言った。「会長さん、ステキ。渋い男性に弱いの。ああ~~、濡れちゃう」

 

植木は、もっと洗練されたホステスのいるクラブと思っていたが、JKのようなホステスにどのように話しかけていいか戸惑ってしまった。松山も場違いな場所にやってきたというような顔をしていると、カウンターから真っ赤なロングドレスの女性が笑顔でやってきた。彼女がテーブルに近づくと小柄なホステスが甲高い声で彼女を紹介した。「こちらが、中洲ナンバーワンの美人ママ」ママは、軽くお辞儀すると二人の正面に腰かけ、挨拶した。「ママのナミエです。岡崎様から、お二人のことはうかがっております。もうしばらくお持ちください」ママは、二人のホステスに目配せするとカウンターに戻って行った。

 

松山は、クラブにしてはホステスが若すぎるのではないかと横の能天気な顔をじろっと見つめた。その視線に気づいた彼女は目を丸くして甲高い声を発した。「そんなに見つめちゃ、感じちゃう。はい、どうぞ」ウイスキーの水割りを差し出した。おじさんがJKをナンパしているようでちょっと気恥ずかしくなった松山だったが、無理に笑顔を作り返事した。「ありがとう。ウイスキーもいいが、ブランデーにしてくれ」クレームと受け取ったホステスは、顔を引きつらせ、即座に謝った。「申し訳ありません。すぐにブランデーをお持ちいたします」頭をぺこぺこと下げ、カウンターに向かっていった。

 

春日信彦
作家:春日信彦
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