エロゴルフ(1)

大原は宮里に2通の契約書を手渡すと即座に話し始めた。「代金はご用意いただけましたでしょうか?」松山は、植木の分を合わせて、200万円の小切手を切る準備をしていた。「はい、小切手でお願いします」松山は、200万円と記載された小切手を彼女の前に差し出した。丁寧な字で領収証を切った彼女は松山にそれを手渡した。彼女は満足げな笑顔を見せると話し始めた。「ゴルフ俱楽部会員の特典については、先日お話いたしましたが、なにか、気になる点はございませんか?今後は、宮里と私が松山様と植木様の窓口になりますので、ご遠慮なくご要望を御申しつけくださいませ」

 

ソワソワしていた植木がツアーについて質問した。「早速ですが、来月当たり、どうなんでしょうか?人気があるみたいですから、半年待ちぐらいでしょうか?」彼女は、じらすように少し間をおいて返事した。「いえ、いかなる場合でも会員様のご要望にお応えできるだけのゴルフ場を保有しております。万が一、タイのゴルフ場がいっぱいでも、ベトナム、フィリピンにも多数ゴルフ場を保有していますので、ご希望の日程でのご案内が可能です。今月ですと、29日(金)から三泊四日のタイツアーがございます。いかがでしょうか?」

 

植木は身を乗り出し、松山の顔色をうかがった。松山も行きたい気分であったが、月末の予定を確認しなければ返事ができないと思えた。「それは、急なことですね。二人ともパスポートはあるので、行くことは可能ですが、スケジュールを確認しないことには何とも返事しかねます」彼女は、笑顔で返事した。「松山様のご希望される日程で、どのようなツアーも可能ですから、御都合がつく日程がお決まり次第ご連絡ください」

 

植木は、今回のツアーにどのような会員がいくのか興味があった。「ちょっとお聞きしてもよろしいですか?そのツアーには、どのような方が参加なされていますか?差し支えなければお教え願いたいのですが」彼女は隣の宮里に視線を向けると一つ頷いた。阿吽(あうん)のタイミングで宮里はホワイトのバッグからファイルを取り出し、大原に手渡した。資料を見つめた大原は、一呼吸おいて返事した。「確かに、参加者のことが気になられる会員様もいらっしゃいます。個人情報に当たりますので詳しくは申し上げられませんが、A財務大臣、N 経済産業大臣、 その秘書2名、プロ野球のG監督とS監督、です。今回のツアーは、8名とさせていただいておりますので、あと2名のみの参加が可能ということになります。くれぐれも、このことは、ご内密にお願いいたします」

植木は眉間に皺をよせ、何か考えているようであった。「2名のみですね。今のところは、まだ決まっていないということですね」大原は、軽くうなずいた。「日本オープンに出場されたことのある松山様の参加であれば、先生方も監督も歓迎されることだと思います」植木が、ドヤ顔を作り質問した。「少し考えさせてください。返事は火曜日には致します。ところで、宮里さんもセールスレディーでいらっしゃるのですか?」大原はほんの少し微笑み隣のショートヘアの宮里の役職を説明した。「彼女は、通訳とガイドを担当しています。A 大臣の御指名で、今回のツアーにも参加いたします。ゴルフはシングル級ですのよ。ね、宮里さん」

 

松山は、シングルと聞いて身を乗り出した。「へ~~、シングルですか。ハンデはおいくつですか?」宮里はシングルと紹介されて顔を赤らめてしまった。「シングルと言っても、大学でゴルフ部だったという程度でたいしたことはないんです。大原さんが、大げさに言っているだけです」松山は、ゴルフ部であれば、かなりの腕だとにらんだ。「それでは、今回のツアーで、大臣たちと御一緒にプレーなされるんですね」

 

宮里は、パッと笑顔を作り返事した。「はい、プレーいたします。どういうわけか、先生に気にいられまして。先生は、野球選手とゴルファーにとても好意を持たれておられます。もし、トップアマの松山様がご参加なされるのならば、先生は、とても歓迎されると思います」植木が、身を乗り出し松山の自慢話を始めた。「会長は、糸島中学ゴルフ部特別顧問をなされていて、ジュニアの育成にも力を入れておられます。糸島では、ちょっとした有名人なんです」

 

マジな顔つきになった松山は、宮里をじっと見つめた。「今回のツアーに参加できるかどうか分かりませんが、いつか機会がありましたら、ご一緒にプレーいたしましょう」宮里は、満面の笑みを浮かべ返事した。「ぜひ、お願いいたします。トップアマの方とラウンドできるなんて、夢みたいです。よろしくお願いいたします」大原は、笑顔を宮里に向けると声をかけた。「よかったわね。今日うかがったかいがあったわね。それでは、松山様と植木様のご返事を心待ちにしております。この辺で失礼いたします」彼女が立ち上がると宮里も即座に立ち上がった。

不吉な予感

 

彼女たちが去ったリビングには、体臭と香水がブレンドされた甘い香りが漂っていた。すでに行くつもりになっていた植木は、能天気な笑顔で松山に確認した。「会長、行かれますよね。またとない、絶好の機会です。早速、準備いたしましょう」行く気にはなっていたが、松山は、笑顔を作らなった。なぜか、漠然とした不安がよぎっていた。「まあな、行ってもいいが、どうもな~~。何か、引っかかるんだ。何かが?」

 

植木は、松山の言っている意味がさっぱり分からなかった。「いったい、何が、引っかかると言うんです。日本には、絶対ない、最高のサービスじゃないですか。しかも、大臣とラウンドできるかもしれないんです。こんな機会は、二度とないかもしれませんよ」松山は、腕組みをして天井を見つめた。「ウ~~」とうなり声をあげると考えていることを話し始めた。「どうも解せないんだ。大臣が、プロ野球の監督たちと旅行するのは、分からなくもないが、どこの馬の骨ともわからない俺たちのような庶民と旅行に行くだろうか?おまけに、俺のエサみたいなシングル級の若くてかわいいガイドのお目見えときてる。ちょっと、できすぎてりゃしないか?何か、引っかかる」

 

植木は、即座に懸念を打ち消すかのように反論した。「何をおっしゃります。会長は、トップアマとして有名じゃないですか。そこを見込んで誘ってくれたに違いありません。他では体験できないラウンドを提供するのが、皇帝KGBゴルフ倶楽部のいいところじゃないですか。ちょっと、考え過ぎじゃないですか?素直に、幸運を受け入れましょうよ。かわいいピチピチコンパニオンが待ってるんですよ。迷うことなど、ありませんよ」そのようにご機嫌を取られた松山だったが、心に漂う不吉な予感は消えなかった。

 

植木は、松山の気持ちの方向を変えようとゴルフの話を持ちかけた。「最近、うまくなったでしょ。会長のアドバイスのおかげです。ついに、90が切れるようになりました。ウッドを短く持って、着実に前進して、ボギーを確実に取れ、とアドバイスいただき、最近は、まぐれでパーも取れるようになりました。夢みたいです。ショートウッドがあれば、ダフリのアイアンなんて、いりませんね。みんなもショートウッドを使えばいいのに。やっぱ、見栄を張ってるんですかね」

松山は、ふと我に返り、自分を見失っていたことに気がついた。つい最近まで、豪快に背筋力で飛距離を出して、バーディーを取る事ばかり考えていた。だが、自分の左脚に対する感謝を忘れてしまっていたように思えた。高齢になれば筋力の衰えや疲労回復の遅れは、当然起きる。それなのに、そのことを考えず、若いころと同じように目いっぱい背筋を使っていた。ショットの不調の原因は、おそらく、そこにあるように思えた。

 

左脚の動きを考えず、がむしゃらなスイングが、ミスショットを生んでいるように思えた。今一度、初心に戻り、左脚の働きを重視し、もっと左脚の声を聞かなければ、と反省した。若いころは、左脚の声が聞こえていたのに、年を取るにしたがって傲慢になってしまったのか左脚の声が聞こえなくなっていた。この機会に、心機一転、左脚を鍛え、左腰の切り上げを強化することを決意した。

 

ドヤ顔の植木に目をやると感心した表情で返事した。「ほう、植木も、ついに90を切れるようになったか。まあ、ウッドは滑ってくれるから、コンパクトに打てば、ダフルこともない。ティーショットもドライバーにこだわらず、クリークを多用すればいい。今の調子でやれば、スコアも安定するだろう。タイでのゴルフが楽しみだな」植木は、大臣とのタイツアーが決定したと思い、歓喜の返事をした。「早く、タイのコースでラウンドしたいですよ。触り放題のピチピチコンパニオンも待っていることだし」

 

今回のタイツアーは、長い間、伊都タクシーに貢献してきた植木への感謝を兼ねていた。千秋が社長に就任できたのも、植木が陰ながら必死に働いてくれたからであった。そのことは、全社員が認めるところであった。「大臣や監督たちと一緒というのは、ちょっと気が重いが、植木の慰労を兼ねて、思い切っていくとしよう。二人が、ちょっと羽を伸ばしても、社員は大目に見てくれるだろう。そうと決まれば、旅行の準備だ」

サーファーヒカル
作家:春日信彦
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