趣味じゃない生業でもない「ゆるい起業」

ゆるい起業は、明るい未来のアイデアかも知れない

 世間一般にゆるい起業という言葉が定着しているわけではありません。しかし今までも主に会社を定年退職して自由な時間を持ち、生活資金にも余裕がある人が自身の趣味と実益を兼ねて生き甲斐づくりのために身の丈に合った自分のビジネスを始める、という考え方がありました。

 仕事を通じて世の中に貢献したいとか、暇を持て余したくないなど、定年退職後に起業したい欲求が有ったとしても、年齢は既に60歳だから、あまり長時間の仕事やストレスのかかる仕事はしたくないと考えることは無理もないことでしょう。しかも会社から既に支給された退職金やこれから受け取るであろう公的年金があることから、もうそれだけで生活に困ることは無いし、その上無理して働かなくても済む楽しい仕事でお金を稼ぐことはできないものか。そう考えることは合理的です。

 一方、公的年金の支給額は会社員時代の年収レベルと比べて少ないことも事実です。だからこれからは今までのように贅沢はできない。遊びも制限を受けるでしょう。多くの人にとってある程度の貯えがあったとしても、せっかく貯めた預貯金が会社を辞めたのを境に毎年減り続けるのを座して眺めていることは心配が高まるでしょう。

 それならば、せめて自分のお小遣いぐらいは自分で稼いて行こう、お小遣いは生活費に比べると大した額は要らないから、自分の好きなことを誰にも口を挟まれずに好きなやり方で楽しくお金を稼いで行こう。私はそう考え始め、実際に8年前から個人事業での起業に取り組みました。

 それから8年経った今のビジネスからの収入は、毎年ほぼ30万円です。しかし欲も出て年収100万円になれればいいなあと、毎日工夫を重ねながらネットを中心に、やりたいことでお金が稼げる小さなビジネスを続けています。そのおかげで会社を辞めて8年間の毎日が暇だと感じた日がありません。まったく一人のビジネスで、収入は全て自分の小遣いになるから生活を支える切迫感がありません。

 幸い年収30万円が毎年手に入るようになったため、その範囲で何でも自由にお金を使うことができます。これから受け取る少ない額の公的年金から無理言ってお小遣いをもらうことが無い仕組みを手に入れました。私は特に年金受給世代の人にも少しでいいから仕事をして収入が毎年ある暮らしが大切ではないかと思っています。自分の手で収入が作れたら、自信が持て、遠慮せずに毎日楽しく暮らして行ける。そう思いまして、今まで8年のゆるい起業の経験を、とりあえずここにまとめてみることにしました。

ゆるい起業のおおざっぱな仕組みはこのようなもの

 ゆるい起業がどのようなものであるか、イメージを読者の方々に持ってもらえるように書いてみました。

 会社員の夫を持つモデル夫婦の年金は月約23万円程度なのだそうです。年間にしたら276万円。ちなみに私は51歳で会社生活を終えていますから夫婦の年金合計は約240万円です。まずこの年金だけで貧しくないふつうの暮らしができる基本生活費をチューニングします。例えば大きな車を小さな車にするとか、不要な保険を解約するなどです。それからいざというときの出費は年金以外の貯えで賄うことにします。大雑把ですが、これで年金以外の収入が無くても私は生活できます。

 これができたら、お小遣い稼ぎだけを目的にゆるい起業を始めます。大事なことは上述した普段の生活に必要な基本生活費にゆるい起業からの収入が混じらないようにすることです。もし儲かったお金を普段の生活費に混ぜてしまったら、生活はたちまち贅沢になり、一旦贅沢になった暮らしはなかなか質素に戻せないから、こうなったらもはやゆるい起業はできません。必死に辛い仕事でもやって行かなければならなくなるからです。

 従って自分年間でいくら稼げば自分は納得できるのか、そこから年収の夢を描くといいと思います。私の場合は年間30万円ぐらいあれば、一応は自分がしたいことをして、買いたいものが買えますから、これを上回る収益を1年間で出せばよいことになります。

 一方、何で起業するかを決めることが要ります。ここで見栄を張るとゆるく起業できませんから、自分の好きなこと、あるいは得意なことで気楽にできる仕事をネタに儲かる仕組みを考えます。儲かる仕組みと言うと難しいと思うかも知れませんが、ネットの世界では既にいくつも無料で開始できるお金を儲ける仕組みがあります。例えばネット通販のアマゾンや楽天市場の広告を自分で作ったサイトに貼るというものが一番簡単で手っ取り早く開始できる儲かる仕組みのでしょう。他にもオークションサイトやフリマサイトなど物販で儲ける仕組みもあります。

 ただ、いくら始めるのが簡単でも、いきなり納得いく儲けは出て来ません。上達するまでにはそれなりの年月がかかります。あまり稼げないなら、お金をなるべく使わないでその分で自分のビジネスを磨くことを考え続けたらいいのです。これは好きなことでしかできない仕事のやり方でしょう。今までの現役時代には許されなかった自分のための自分の仕事だから、儲からなくても好きだからやって行ける。こんなビジネスネタで始めることがゆるい起業の仕組みには必要です。

ゆるい起業家の掟は、基本生活費は貯めてから始めろ

 ゆるい起業家になるには「基本生活費を貯めてから開始しろ」はマストです。基本生活費については前述しましたが、いったいどのようなものが基本生活費で、どんなものが基本生活費ではないのか書いてみましょう。

 昔から衣食住と言いまして、着るものと食べるものと住むことに関するものは欠かすことはできません。これらは生活に最低限必須なアイテムだとなっていました。従ってこれを基本生活費と考えることも一理ありますが、人間はただ生きていればいいものではありません。質素でもそれなりに便利で快適で楽しく暮らせなければやって行けない生き物です。

 衣食住と決めつける代わりに、今の暮らしをどの程度まで切り詰めてもそれなりに便利で快適で楽しく暮らせるかと考え、その視点でギリギリの生活費とその内訳で基本生活費に、それに入らないものを贅沢費に分類すると効果的です。

 例えば私は自動車を持っていまして、これは今後しばらく必須アイテムです。しかし高級車までは必要ありません。そう考えて4年前に軽自動車に乗り換えました。この軽自動車に乗り続けるためのガソリン代や車検費用などはそのための必須ですから基本生活費ですが、何年か後にまた新しい軽自動車に乗り換えるかどうかの時に要るお金は基本生活費ではありません。贅沢費に分類しています。なぜなら古い車でも大切に乗れば長く乗れるからです。

 食事は確かに基本生活費です。ただし外食は贅沢費です。しかし家で食べるにしても質素な料理ばかりではだめですから、刺身もステーキも食べるでしょう。だから家で食べる食材は基本生活費としています。

 このように家計簿を見ながらいろいろ分類していくと基本生活費と贅沢費に別れて来ますが、ここの境目は完璧でなくても構いません。分からなくなったら基本生活費に入れておけばいいです。多分今後に要るかもしれないいざと言う時用の貯えも要るでしょう。そういうものの合算が基本生活費の総額になります。

 少なくともこの基本生活費が今までの貯えと年金で大丈夫だと思えなければ、ゆるい起業に乗り出して行くことには不安過ぎます。

 もしそんな不安が残るなら、多少どこかに勤めるなりして、安心な収入先を手に掴んでから、余暇の時間にゆるい起業を並行的に始めたらいいと思います。

ふつうの起業は利益第一だけど、ゆるい起業は気楽さ第一、利益は第二に考える

 起業する目的は、ふつうの起業でもゆるい起業でも、事業を始めて利益を生み出すことです。どちらも起業のごく当たり前の考え方であることには違いありませんが、ゆるい起業は利益第一にいたしません。一番ではなくて二番目です。

 考えてみてください。
利益第二ではいけないのでしょうか?

 ふつうの起業で始めた仕事は生業と言い正真正銘のその道のプロになることです。プロはその事業で食っていきます。だから利益が食うために足りないと生活がままなりません。生活に必要なお金は決して少額ではなく家族を養うためにはすごい金額を稼がなくてはなりませんから利益第一にしなければ成り立ちません。しかしゆるい起業家は事業では食いません。ゆるい起業家は稼いだお金で食ってはいけない。ここがポイントなのです。

 ゆるい起業家の要求はこんなことではないでしょうか。以下は私自身が欲したこともありますが、その他についても想定を書いてみました。
  • もう年金を受け取っている年代だから、その上稼ぐ必要が無いかもしれないけど、何もしない暮らしも退屈だから、余暇を利用して少しは稼ぎを得たい。
  • 今までの会社生活は忙しくてとても疲れたので、生活の貯えができた今は身の丈で好きなことで事業を起こし、細く長く仕事を続けていきたい。
  • 病気になってしまいハードな仕事はできないけど、自分にできる範囲で少しはお金を稼ぎたい。
  • 会社員ですが副業を始め10年が経ちましたが、これは誰にも内緒で始めたビジネスなので、目立たずに好きな道で少しづつ成長を重ねて行きたい。
など。

 他にも人それぞれにゆるく稼ぎたい事情があると思います。そのようなとき、一番大切なことは、長く続けられるようなやり方をとることです。
長く続けられる一つの仕事を選ぶのではありません。仕事は年々変わったとしても構わないけど、仕事への考え方を決めておかないと、途中で「お金があるからもうどうでもいいや」と意欲が低下したらせっかく始めたビジネスが長続きできないからなのです。これが稼ぎで食っていかないゆるい起業の弱点です。

 そのようにならず、ゆるい起業ができれば生涯続いていくように考えていきましょう。

大庭夏男
作家:大庭夏男
趣味じゃない生業でもない「ゆるい起業」
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