小説の未来(12)

いくつかの作品においては、精神や社会に関する具体的な事象をもとにドラマ化していますが、あくまでも事実についての考察を行っているのではなく、これらの事象を参考にして未来の人間の在り方を考察しているのです。今後、常識の変化に伴い読者の認識は変化すると予測し、そのことも踏まえ作品を構成しています。

 

私の作品はノンフィクションものではないので、可能な限り事実は書かないようにしています。でも、現実に起きた事件を参考にした作品もいくつかはあります。未来の読者には、平成時代に書かれた作品から、当時の作者の未来観を感じ取っていただければと思っています。

 

おそらく生きてはいないと思われる30年後の社会を想像することは難しいのですが、人の心はあまり変わっていないような気もします。恋愛小説の源氏物語が、現代の人に感動を与えていることを考えると、その時代の作品は、未来の作品にもなりうるのではないでしょうか。以下に述べる基礎概念は、未来の読者にも十分役立つものと思っています。

基礎概念

 

小説は読者に満足していただければ、成功作品と思われますが、作品には作者なりの思いも詰め込まれています。私の場合、すでに電子書籍として短編小説73作品を公開しています。それらの作品にはそれぞれの具体的テーマがありますが、また、すべての作品には理解されにくい共通する基礎概念も根底にあるのです。この基礎概念こそ自作の最大の特徴なのです。

 

その基礎概念を理論的に説明できればそれに越したことはないと思うのですが、それが難しいのです。だから、どうにかこうにか、小説で表現しているというわけです。果たして、自分の基礎概念をどれほど読者に伝えられただろうかと思うと自信はありません。

 

簡単に言えば、力学においては、作用と反作用が同時に起きています。積分においては、解析と集積が同時に起きています。細胞においては、がん細胞と正常細胞が同時に生まれています。

 

このように相反する運動が同時に起きているのですが、我々は、一定の条件を設定して、事象を認識しています。たとえば、YX においては無限の存在を認識しますが、―1から+1までの条件を設定すれば、 有限の存在を認識できます。

 

私の基礎概念は、理論的にうまく説明できませんが、自分なりの表現として、短編を書き続けています。なぜ、短編にするかと言いますと、確かに、長編にすれば読者にとっては楽しめるドラマになるのですが、こうなってしまうと、どうしても読者は娯楽に酔ってしまうのです。だから、あえて長編をさけているのです。

 

小説は娯楽なのだからそれでいいじゃないかとおっしゃる読者は多いと思われますが、私は、表現したい基礎概念を優先したく、短編にまとめ上げています。でも、シリーズものにしていますので、それらをリンクさせれば、長編として読むこともできます。

 

言語の特性

 

 基礎概念を理論的にうまく表現しにくいのであれば、映像化してみてはどうか?と言われる方もいらっしゃるでしょう。小説が映像化される例は、多々あります。言語を非言語化する手法は、小説をより娯楽化するのには適していると思われます。

 

 松本清張の「砂の器」は、映画、TVで見られた方のほうが、小説を読まれた方より多いのではないでしょうか。確かに、映像化されるとドラマの内容はわかりやすく、主人公を通じて楽しめるのですが、果たして、人気俳優をクローズアップしたドラマで、作者の訴えたい気持ちがうまく表現されているのだろうかと考えると疑問が残るのです。

 

 やはり、言語で訴えられるものと映像で訴えられるものには、違いがあります。決して、小説にとって映像化がマイナス的なものと言っているわけでありません。いったん、映像化されたものは、言語からなる小説とは別物と考えた方がいいのではないかと思うのです。

春日信彦
作家:春日信彦
小説の未来(12)
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