小説の未来(12)

今まで小説を書くうえでの創作概念についていくつか述べてきましたが、今回は、作品に共通する基礎概念と作風の特徴について述べてみたいと思います。

 

未来の読者

 

一般的に、小説は読者のために書くわけですから、ほとんどの作品は読者が楽しめることができる範囲を逸脱しないように仕上げられています。私も読者のことを考慮して書いてはいますが、自作品は市販されている作品と違って、いくつかのこだわりが組み込まれています。

 

 私の作品をお読みになったことがある読者の方は、お気づきと思いますが、作品と書かれた時期が少なからずリンクしていることです。というのは、作品を読んでいただく時期を現在だけでなく未来にも想定しているからです。

 

言い換えると、現代の読者だけでなく、10年後、20年後、30年後の読者を想定して書いているのです。たとえば、一つの例として、登場人物の名前に人気芸能人や政治家の名前を使ったりしています。30年後の読者に、その名前をヒントにその時代の社会背景を連想していただきたいのです。

 

いくつかの作品においては、精神や社会に関する具体的な事象をもとにドラマ化していますが、あくまでも事実についての考察を行っているのではなく、これらの事象を参考にして未来の人間の在り方を考察しているのです。今後、常識の変化に伴い読者の認識は変化すると予測し、そのことも踏まえ作品を構成しています。

 

私の作品はノンフィクションものではないので、可能な限り事実は書かないようにしています。でも、現実に起きた事件を参考にした作品もいくつかはあります。未来の読者には、平成時代に書かれた作品から、当時の作者の未来観を感じ取っていただければと思っています。

 

おそらく生きてはいないと思われる30年後の社会を想像することは難しいのですが、人の心はあまり変わっていないような気もします。恋愛小説の源氏物語が、現代の人に感動を与えていることを考えると、その時代の作品は、未来の作品にもなりうるのではないでしょうか。以下に述べる基礎概念は、未来の読者にも十分役立つものと思っています。

基礎概念

 

小説は読者に満足していただければ、成功作品と思われますが、作品には作者なりの思いも詰め込まれています。私の場合、すでに電子書籍として短編小説73作品を公開しています。それらの作品にはそれぞれの具体的テーマがありますが、また、すべての作品には理解されにくい共通する基礎概念も根底にあるのです。この基礎概念こそ自作の最大の特徴なのです。

 

その基礎概念を理論的に説明できればそれに越したことはないと思うのですが、それが難しいのです。だから、どうにかこうにか、小説で表現しているというわけです。果たして、自分の基礎概念をどれほど読者に伝えられただろうかと思うと自信はありません。

 

簡単に言えば、力学においては、作用と反作用が同時に起きています。積分においては、解析と集積が同時に起きています。細胞においては、がん細胞と正常細胞が同時に生まれています。

 

このように相反する運動が同時に起きているのですが、我々は、一定の条件を設定して、事象を認識しています。たとえば、YX においては無限の存在を認識しますが、―1から+1までの条件を設定すれば、 有限の存在を認識できます。

 

私の基礎概念は、理論的にうまく説明できませんが、自分なりの表現として、短編を書き続けています。なぜ、短編にするかと言いますと、確かに、長編にすれば読者にとっては楽しめるドラマになるのですが、こうなってしまうと、どうしても読者は娯楽に酔ってしまうのです。だから、あえて長編をさけているのです。

 

小説は娯楽なのだからそれでいいじゃないかとおっしゃる読者は多いと思われますが、私は、表現したい基礎概念を優先したく、短編にまとめ上げています。でも、シリーズものにしていますので、それらをリンクさせれば、長編として読むこともできます。

 

春日信彦
作家:春日信彦
小説の未来(12)
0
  • 0円
  • ダウンロード

1 / 7

  • 最初のページ
  • 前のページ
  • 次のページ
  • 最後のページ
  • もくじ
  • ダウンロード
  • 設定

    文字サイズ

    フォント